物事の価値を判断するには、その礎となる信念や哲学が必要なのはいうまでもないが、なかでも知識人の哲学を示そうと試みたのが本書である。著者自身が「知性の骨格」と呼ぶ三十歳代から組み立ててきた図形的解説を、「羞恥を押し殺しつつ開示」したという本書だけに、その意義は大きい。なにやら著者の秘密の引き出しをのぞき見したような、少々助平な興味を満たしてくれる本である。宗教人の価値体系が信仰に依るなら、知識人のそれは何に依るのか?相対主義やイデオロギーなのだろうか?読み進めていくうちに、知識人であることは、厳しい思索を通してバランスを獲得するという極めて心もとない営為だということに気付かされる。それは宗教人の悟り至る道のりに比することができるのではないだろうか。そうすれば「知識人」が「瀕死の状態にある」のも無理からぬことなのか。著者の政治的・思想的立場に賛否はあるだろうが、本書を一読する価値は十分にある。