いろいろな意味で分かりづらい本。帯の益川先生の言葉は嘘ではないが…
第一に 【言葉が分かりづらい】
「はじめに」の時点で嫌な予感がした。やれ「蒸散作用」やら「浸透圧」やら「比重」やら。用語を出すのはいいが,これら専門用語の定義はおろか,簡単な説明すら全くない。
本文はQ&A形式になっているが,その傾向は本文になっても変わらない。例えばQ2での「補色」,Q6での「3d主遷移元素」など。何のフォローもない。だったらそんな用語使うな。Q4「エアコンで部屋が冷えるのはなぜですか」の図の分かりづらさはもはや失笑。池上彰にこの図をフリップにして見せたら2秒で破り捨てるレベル。
もちろん,これが専門書であれば何の問題もない。ただこれはブルーバックスだ。難しい専門用語が理科嫌いや,理系に対する敷居の高さを生んでいる。だからそういう敷居を少しでも低くし,自然科学をやさしく紹介するするために作られたのがブルーバックスシリーズなんじゃないのか?だったらこの本はその目的を果たしていない。むしろ正反対のことを行っている。「ねーねー,お空はどうして青いのー?」って聞いてくる5歳児に対して「それは,太陽光という電磁波が大気圏に入ると散乱するんだけど,あ,正確にはレイリー散乱かな,それが波長の4乗に反比例するからなんだよ,後は可視光線の波長帯を考えればおのずと分かるよね?」っていう感じ。
確かにね,初学者には少しレベルの高いブルーバックスもあるにはある。それは分かってる。でもだったらさ,こんないかにも「はい初学者さん向けですよ〜」みたいなタイトルつけてくれるなよ。
第二に 【購入者ターゲットが分かりづらい】
結局この本,誰に向けて作られた本なんだ?物理に興味を持った高校生がこれを読めば投げ出すこと請け合い。お父さんが子どもの質問に備えて買いそろえたとしても同様の悲劇が待っている。
専門家が買ったら……まあ買わないと思うけど,「あーはいはい高校レベルねー,そうそう難しいよねーこういう素朴な疑問ー」とか言いながら斜め読みしてそう。憶測だけど。
これ以上被害者を出さないためにも,今すぐこの本のタイトルを「物理学会の大先生がどや顔で愚民に語る 本当に説明が面倒な物理の疑問」に変えてくれ。
そして第三に【内容が分かりづらい】。これが致命的
Q&A形式で疑問に答えるってのは良いと思うんですよ,分かりやすくて。でもね,その回答方法が駄目すぎる。
例えばQ2「いくつもの絵の具を混ぜると黒くなるのはなぜですか。」で,その回答「三原色に…<中略>…では,なぜ光と色の三原色は異なるのでしょう」 質問を質問で返すなあーっ!! 疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか?
しかもこれ序盤だからね。2番目のQの3文目にこれだから。主題の疑問を置き去りにして,勝手にぶち上げた疑問の解説を始める画期的なQ&Aには脱帽ですわ。しかもその『光と色の三原色は異なる』っていう疑問に答える必要性を全く説明することもなく始めちゃうからね。読んでる方としてはビックリだよ。
普通こういう疑問が提示されたらさ,僕ら初心者に「A.それは全ての色の光が吸収されるからです」ってまず端的な答えをバンッって提示してくれよ。それで僕らはまず安心するから。で,「では,どういうことなのか具体的に説明しましょう。その為には『補色』という概念が必要です。次ページの図を見てください…」
ってやるだろ。どこまで分かりづらいんだよ。
Q15「リニアモーターカーの最高速度はどのくらいですか」の回答。よくわからないモーターの種類とか原理とか,延々読まされたあげく,最後の最後に「581km/hです」。だったらそれ最初に書けや!!リニアの原理とかそういうのはその後ゆっくり書けばいいだろ。フラストレーションたまりまくる構成。もう逆に褒めたいくらい。
あと図が少ない。びっくりするくらい少ない。1つの疑問に2〜3コ図があってもおかしくないはずなのに,2〜3問に1つの絵だったでござるの巻。たまにあっても超分かりづらい。P.153の図はなんとか理解できるけど,他は「とりあえず文字ばっかだとあれだから付けときました」感に溢れてる。あとは文字の暴力。専門用語だらけ(解説なし)のまみれた。あ,もちろん図にもたくさん専門用語(解説なし)つけといたからね!
明らかに物理じゃない疑問もあるっていう所もツッコミどころだけど,もう面倒なのでやめる。
あー,でもこれでいいのかな。だってこの本のタイトル「知っておきたい物理の疑問」だもんね。確かに疑問は知れるもんね。ただし疑問のままだけどな!!!
何か酷評になってるけど,別に著者の人格などを否定したいわけではない。むしろこういう試みは僕たち初心者にとってはありがたい。でも,だからこそもう少し出す前に考えてほしかった。おそらく執筆者も科学的に間違ったことは書けないからっていうことで,いくつか追記していくうちに初学者向けから離れていってしまったのではないかと推察される。だからってその状態で上梓してほしくないわけだが。
日本物理学会の名を冠して一般大衆向けに本を作るんだったら,もっと,もーーーっと推敲しないと駄目だって。分かってる人向けに論文書くのとワケが違うんだよ先生方。それともあれか?「これくらい理解できなきゃ物理なんてやるな」っていうそういうのですか?そういうのは大学の研究室や教室までに留めといてください。お願いだから。
どんな学問分野でも,入り口の第一印象はとっても大事なんだ。ブルーバックスシリーズは間違いなくその入り口の一端を担っている。編集者はその自覚をもって本を編集してほしい。日本から優れた理科教育,研究者が育つためにも心からそう思います。期待を込めて★2