これが父・ディック名義では最終作品となる。ほんとうに長い間、楽しませていただいてありがとうございました。毎年、年末から年始にかけて必ず新作を刊行してくれたので、とても安心して読むことができました。奥様、名訳者の死を乗り越えてここまで継続したことには、なにものにも代えがたい大きな大きな価値があります。
ストイックな主人公が家族の葛藤の中で、競馬界の事件に巻き込まれて、不屈の闘志で解決してゆくパターンは「偉大なるマンネリ」であることは否定しませんが、それぞれの主人公、職業、背景など思い出すだけで再読したくなるほど充実していました。
本作はストイックというよりはシニカルな印象が強い主人公ですが、いつの間にかその価値観、行動力、強い意志に引き込まれていつものように「一気読み」でした。もちろん、脱税や脅迫は解決しても、わざと負けた八百長はちっとも解決していない、とか流しの犯行はありえないのでミステリーとしては弱い部分も当然、浮かんでしまいますが、そんなツッコミどころを割り引いても「遺作」としての金字塔は光輝いています。
ある先輩が「ディック・フランシスのシリーズは敢えて読まずに残しておく。老後の楽しみのために。」といっていたが、それも正解だろうし、速攻読みと再読を繰り返すのもけして間違っていないと思います。
はたして息子、孫といったファミリーが今後、このシリーズを上手に継続できるのかは未知数だが、また来年の今頃、新作を探している自分がいると確信しています。