ヒロインは9歳のときに自分がジェイムズおじさまの姪ではなく娘、“私生児”だと知る。
氷のように冷たい軽蔑と嫌悪にさらされたその日を境に、無邪気でよく笑う少女は無口になり、感情を見せなくなった。
そんな少女を5歳年上のいとこのマーカスは“妃殿下”と呼びはじめた。お高くとまっているから、と。
やがて、だれもが彼女のことを“妃殿下”と呼ぶようになった。
≪レガシー≫シリーズ第1弾。
レガシーには「遺産」「遺物」という意味があるそうで、
この物語も前半はチェイス伯爵ジェイムズの遺産をめぐる大騒動が、後半はウィンダム家の秘宝にまつわる謎解きがメインストーリーになっています。
しかし、この作品の読みどころは、なんといっても妃殿下とマーカスの丁々発止の攻防戦でしょう。
妃殿下は、そのあだ名の通り常に冷静で落ち着いた態度をくずさない、凛とした物腰の絶世の美女。
対するマーカスは、それとは正反対。妃殿下が静かな湖なら、彼は活火山。
短気。せっかち。喜怒哀楽が激しい。すぐにかっとして、思いついたことはそのままなんでも吐きだす。行動も起こしてから、考える。
手を焼かせる頑固者で、わからず屋。
通常のロマンス小説では、本心を明かさず心開かないのはヒーローなのですが、この作品ではまったく逆。
妃殿下の超然とした雰囲気をくずしたい、笑顔でも怒りでもなんでもいいから感情を見せてほしいと、じたばたするのはマーカスの方です。
彼女の反応を引き出したくて、けなし、あざけり、暴言をはき、反応がないのに苛立つマーカスは、自分の言葉や態度がどれだけ妃殿下を傷つけているのか
気づきません。鈍感です。
さんざん彼女にわめきちらしたあとで(実際、これだけヒロインに対してわめきちらすヒーローは、まずいない)、自分の馬鹿さ加減に腹を立て、罪の意識を覚えて
後悔するけれど、素直に謝ることも態度を改めることもできなかったりします。
このあたりのやりとりは、読んでいて微笑ましく思う反面、結構じれったいです。
しかし、物語の中盤で、妃殿下がマーカスを助けるために取ったある行動が彼のプライドと男の沽券を傷つけ、彼を本気で激怒させ、事態を一変させます。
どうしても妃殿下を許せないマーカスは、彼女を責め立て、侮辱し、ぎりぎりまで追い詰めてしまった結果、とうとう妃殿下を逆上、怒りを大爆発させてしまうのです。
この憤怒事件(←ものすごくおもしろい)がひきがねとなり、妃殿下は素直に感情を表現できるようになり、逆にマーカスは自制心を発揮するようになります。
マーカスに怒りをぶちまけ、やきもちをやきまくる妃殿下はとても可愛く、2人のやりとりもまさに痴話げんかといった感じで、読んでてにんまりしてしまいます。
もうひとつの読みどころが脇を固める登場人物たち。
妃殿下の従者兼料理人のバッジャー、マーカスの従者スピアーズ、妃殿下のメイドのマギーの3人は特にいい味を出していて、
この3人が“妃殿下とマーカスの保護者”よろしく2人の仲を取り持とうとしたり、守ろうと奮闘したりする場面はとても楽しいです。
それ以外の人物も全員キャラがたってて、個性的。めちゃくちゃ濃いです。ただ、人数が多くて濃すぎるかも…。
正直、人数も動きも多すぎてごちゃごちゃ、特にラストの方はどたばたしてるかなーと感じました。
作品の完成度からすると★4だけど、ヒーローの魅力とストーリーを盛り上げるヒロインの“謎の仕事”を加味して★5。
しっとりした大人のロマンスでは断じてありませんが、24歳と19歳の初々しく騒々しい恋物語&謎解き。
おもしろかったです。