火山学者芳村頼子の魂の彷徨がメイン・プロットである。その中で江戸時代の女性ハツの書いた浅間山噴火の記録が重要な役割を果たす。子供との会話や、メキシコに入る恋人との文通、プールでの先輩教授との会話など多くのエピソードが挿入されていて、重層的に現代社会を描いている。江戸時代と現代、メキシコと日本というように時間的・空間的広がりを感じさせる。易の話が出てきてこれがストーリーを展開させるポイントになっているのも着眼点がユニークである。
いつもの事ながら池澤夏樹の文章は透明でリズミカルなので読んでいて心地良い。本書の中で一番好きなフレーズは「偶然」という言葉についてのべたもので、「この言葉はいつも事実の背後からいきなり登場して、すべての説明を押しつぶし、論議を禁止してしまう。」というものだ。登場人物も整理されていてわかりやすい。但し、火山学者が届けも出さないで、危険な火口に単身で行くというエンディングはやや非現実的な設定と思った。
この話を読んでいて、雑誌の星座占いをコピーライターが創作しているという事を思い出した。ウケねらいの情報のおかげでわれわれは本来のものが見えなくなっているかもしれない。
日野啓三の解説もディープで良い。