「真幸くあらば」と言うタイトルは、万葉集の有間皇子の「磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまた還り見む」と言う歌から引かれています。
それは、この本の主人公が南木野(榊原)淳と言う死刑囚であり、その「獄中養母」である榊原茜に出会うことにより、「死」までの限られた期間の「生」をしっかりと全うしようとする姿を捉えているからです。
更に、「解説」に丁寧に書かれている様に、「エロイーズ」「新エロイーズ」を踏まえた熱烈なラブ・ストーリーでもある訳です。
しかも、それぞれ宗教や身分と言う障害があるのに対し、本書は国家、権力と言う障害がある訳です。
従って、この本は単なるラブ・ストーリーではなく、「死刑」において国家が人を殺す権限がどこにあるのか?とか、死刑囚の人権の問題とか、様々な問題が投げかけられます。
宗教的にも、「殺人」が何故罪なのか?と言う素朴な疑問が投げかけられます。
戦争と言う場においては「国家」と言う名で「殺人」が正当化され、「死刑」と言う名で「国家」が「殺人」をするのと、どう峻別するのかと言う訳です。
様々な問題を提起しながら、主人公二人の秘密の往復書簡が交換される形で、この本は構成されています。
その書簡の間を繋ぐのは、教誨師である牧師が関係者との会談です。
榊原茜の正体が語られるあたりから一気に物語は急展開します。
このあたりの構成の上手さは、「新エロイーズ」の挿入の仕方と共に素晴らしいと思います。