プロレスリングという競技自体、他のスポーツとは異なる視線を受けていることを否定する人は余りおられないでしょう。一方、ボクシングは割合、正当なスポーツと認められているせいか、世界チャンピオンは多くの尊敬を集めます。世界ヘビー級王者は常に世界最強の男として名声を獲得しています。格闘技ファンの間では、よく格闘技の中で何が一番強いか、という議論が行われます。プロレスは、ルールがあって無きがごとく、反則を行っても5秒以内に止めれば良い事になっています。ボクシングなら反則が認められればその場で試合は中止されるでしょう。冷静になれば、ボクシングとプロレスの試合というのは、ルールが揃わない以上成り立たないことがわかるのですが、空想の中の対戦を楽しむのがファンの楽しみかもしれません。それを実現したのが「猪木−アリ戦」でした。あの試合、多少なりともプロレスを知っている人なら、あの結果、あの戦法にいきつくことは十分納得がいったはずです。アリは45分のうち、一発のクリーンヒットで猪木を倒すことができますし、逆に猪木は、パンチを一瞬でも交わせればノックアウトできます。しかし、アリのリーチが届く距離は死のゾーンです。僅かに空いているのが足下です。そこにスライディングで飛び込んだ瞬間、見ている側は興奮の極みに達したと思います。15ラウンドのうち、一瞬でも気を抜いて近寄れば殺人パンチが待ち受けています。こうなると剣豪同士の対決のように間合いを保ったまま近づけない状態が続きます。猪木−アリ戦はまさにこういう戦いでした。最終ラウンドの鐘が鳴って、猪木が殺されなくて良かったとホッとしました。あの試合を見て、世紀の凡戦とか茶番劇とマスコミが評したのは知っていますが、どうしても納得が行きませんでした。考えられるのは、引き分けに終わったことでしょう。しかし、名人同士の戦いは、引き分けるのではないでしょうか。この試合以降、こういう触れば切れるような緊張感のある試合というのは余りなかったと思います。茶番劇といった人たちは一体何を期待したのでしょうか。