霊性(spirituality)という人間の営みには、本来、自己肯定と自己否定という対極的な要素が息づいている。
しかし、今日、「スピリチュアリティ」といわれているものは、その一方に過剰に傾斜しているようである。
「ありのまま」の自己を肯定するという美名のもと、それは非常に幼稚な自己耽溺をするための言訳となってしまっているのである。
ただ、ひところ流行したそうした陳腐な「スピリチュアリティ」も、漸くここにきて沈静化してきたようである。
そして、今、あらためて評価されはじめているのが、禅をはじめとする伝統的な修行であり、また、継続的な実践を通して自己との真摯な対峙をすることを奨励する「硬派」なスピリチュアリティである。
そうした機運の変化を象徴する優れた著書が刊行された。それが斉藤 啓一氏によるこの作品である。
この作品は、主人公の青年の探求と変容の旅を物語風に綴るものであるが、そこには常に真摯な求道精神が息づいており、充実した読書体験をあたえてくれる。
この作品の魅力のひとつとは、そこに、人間の変容というものが、その本質において、「死と再生」という過酷な試練を通して実現されるものが克明に描いていることであろう。
そこには、今日、巷に溢れているあらゆる「甘言」を排して、残酷なまでに透徹した洞察が記されているが、ありきたりの「慰め」に飽き飽きとしている高度の読者を惹き寄せることのできる成熟した醒めと暖かさがある。また、そこには、真の自己肯定というものが、徹底した自己との対峙と格闘を通して自己否定にとりくむことができるときに、はじめて到達することのできる貴重な贈物であることが明確に呈示されている。
いうまでもなく、こうしたことは人類の歴史を通して無数の修行者が開示してくれた普遍的な洞察であるが、その普遍的な洞察が、ここには、21世紀を生きる私達読者にとり真に意味と感銘をあたえるかたちで美しく表現されている。
一時的な「慰め」ではなく、真の自己探求と自己変容の方法を模索している読者には是非推薦したい作品である。