昨年末の「ローリング・サンダ―」の突然の初DVD化の際にも叫ばしてもらったが、アラン・コルノーのフィルム・ノワールの逸品が、嬉しい初DVD化である。
今作の主人公は、ひとり身の中年男。刑事である男の日常は、愛用のコルト・パイソンの手入れに始まり、手入れで終わる。
そんな男が、とある出来事から、ひとまわり以上年下の魅力的な女性と出逢う。
男にとっては、人生で初めての狂おしいほどの愛。しかし、そんな男を待っていたのは、最愛の女性の変わり果てた姿と、殺人の嫌疑をかけられた容疑者としての自分だった、、、。
これから御覧になる方の為に、これ以上は観てのお楽しみとしておくが、もう一組のカップルの特殊な夫婦関係と主人公を巡るシチュエーションが、物語を皮肉かつ複雑にさせる。
イヴ・モンタンが、実にシブい。
冒頭、寡黙に職人的手さばきで愛銃の弾丸の手入れをするのと並行して目玉焼きをひとり侘びしく作る姿に、その生活と生き様が瞬時に垣間見える。
ジャック・スマイト/ポール・ニューマンの「動く標的」でも、ロバート・アルトマン/エリオット・グールドの「ロング・グッドバイ」でも、主人公が冒頭でひとりキッチンに立つのが、ムードあるハードボイルド映画の条件のような気がする。
そして、巻頭間もなく殺されてしまう今作のヒロインに、ステファニア・サンドレッリ。
私事ながら、高校時代、名画座で、ベルナルド・ベルトルッチの傑作「暗殺の森」でのドミニク・サンダとのあの官能的なダンス!を観て以来ファンになった者として、その理知的な美しさにも、久しぶりに再会したい。
脇を固めるのは、フランソワ・ペリエとシモーヌ・シニョレ。
人間ドラマでもある今作にとっては絶妙なアンサンブル、完璧な配役だ。
ガン・マニア羨望のその描写の数々については語るほどの資格はないので、他のレビュアーの方々に譲るとして、刑事として、男として、苦悶と復讐に駆られるモンタンに男心をくすぐられつつ、メルヴィルでもジョバンニでもない我らの世代の、数少ない本当のフィルム・ノワールとして、その世界を堪能頂ければと思う。
(付記)アマゾンの解説を読んで、脚本が、「まぼろしの市街戦」のダニエル・ブ―ランジェ、音楽が、御大ジョルジュ・ドリュリューである事を知った。道理で、情感深いはずである。