本書は子どもの日常を描いたエピソードで構成されています。それぞれの短編は、大人の目から見るとありきたりで何ということもないエピソードです。しかし話の中の子どもたちは、ありきたりの出来事から何かを知り、何かをつかみ、決心するのです。
この物語を読んだ後、私は自分がすっかり大人になってしまったことに気付きました。目の悪い男の子があひるのようにプールに潜り手にしてきたもの。妹をつれて遠くに行った兄が聞いた言葉。耳の聞こえない祖父と無口な孫の小さな旅。そして最も印象的だった「よごれディック」のディックの突然の引越し。
物語の子どもが感じたことと、私が感じたことが時折違った時の違和感。それは、私の心の泉に一滴の墨汁をたらしたように広がった後、徐々に薄まっていきました。そして私は自分が大人であることを知ったのです。既に子どもではない私には感じえることが出来ないものがある。これが本書の最大の魅力でした。何でもないことの中にある何かを感じる。その何かが不確かであっても、強い印象を残す物語でした。