人の生き死にについて書かれた本を読んで、涙をこぼしたのは久しぶりだ。鎌田實医師の「がんばらない」以来だろうか。そのため、ついレビューを書きたくなった。
この平野国美医師の「看取りの医者」は8つの実話から成っている。オビには9つと書かれていたが、第9話は総括的な話で、全体のまとめみたいなものだから、実質8話である。
しかし、その1つ1つが強く胸に訴えかけてくる。特に、年老いた夫婦の夫婦愛は、若い男女の愛とは違って、かえって純粋な形に昇華され、人生の最期を静かに、悲しく、しかし豊かに、締めくくるものとなっていて、著者の「自宅で死のうよ」という呼びかけが心に染み入る。
国美は「くによし」で、男性医師である。おもしろいことに、この医師は白衣を着ない。普段着で訪問診療をしている。高齢の患者にズケズケとものを言ったりする一方、患者の家庭の事情を詳細に把握していて、親身になって診療してくれる人らしい。昼夜を問わぬ往診で患者中心の医療の様子がうかがえて、老後はこういう医師にホームドクターとして来てもらえたらいいなと思った。
患者との付き合い方が深いのである。
大きな病院に限らず、普通の医院(診療所)の医師でも、これほど患者の家庭と深くかかわる医師は、最近は見たことがない。昔の「かかりつけの医者」はこんな感じだったんだろうなと思わせる。
それぞれの患者、それぞれの家庭には、さまざまな事情がある。しかし、人間として、最後は家族に囲まれ、看取られながら死にたい、という人は多い。一見ありきたりの人生を歩んできた人のように見えても、じつは人それぞれのドラマがある、ということを、この本は教えてくれる。
その人生ドラマを読んでいるうちに、話に引き込まれ、不覚にも涙がこぼれたのである。私も「自宅で死にたい」と思った。