少年時代に読んだ角川文庫版では、最低最悪な「鎌倉ハム大安売」の章はカットされていました。
同時期に「闇に蠢く」を読んで1週間ほど肉が食べられなくなりました。
もし当時本書(創元推理文庫版)が存在し、それを読んでいたらと思うとゾッとします。
本書で完全版を読み、改めて「最低な変態小説」との感を再認識しました。
でもこの作品を嫌いになれません。水木蘭子、真珠夫人、麗子未亡人、みんな何と魅力的なのでしょう。
特に印象的なのは、器量良しの海女(新妻)が恥じらいながらもやって来る場面で、疑いを知らぬ女性が恐るべき性的殺人鬼の餌食になる様に、
得たいの知れないエロティシズムを感じます(蟹はいったい何を見たのでしょうか?)。
「触覚芸術」などという強引な落ちをつける乱歩先生。子供だましもいいとこで、全編リアリティのかけらもない作品です。
あまりのばかばかしさに、こんなのついていけないと思っても、いつの間にか憑いている不思議な物語です。