2段組で766頁に及ぶ大作であり、著者の葬式で読まれた司馬遼太郎氏の弔辞で始まり、この本の編集を担当した沢木耕太郎氏の文で終わるという構成にまず驚かされる。この本は最後に載った「仏陀を買う」以外は全て単行本未収録の文章が集められていて、沢木氏は著者が活躍した各分野、すなわち「記事」「ルポ」「評論」「エッセイ」「創作」を並べることで、どのように変化、あるいは深化したかを俯瞰できる1冊を作ったという。著者の表の顔ともいうべき「記事」「ルポ」「評論」の部分はベトナム戦争はもちろん、インドシナ半島を中心とする東南アジア情勢のプロといえる圧倒的な情報量と分析力を見せつける。そして裏の顔である「エッセイ」「創作」は、沢木氏と同時受賞した大宅壮一ノンフィクション賞や中央公論新人賞の受賞で本格化する矢先の死だった。
厖大な量のこの本を読み終わって、再び読みたくなるのが沢木氏も指摘しているが、「創作」の中の「夏の海」という小品ながら非常に美しい作品だ。著者と前夫人との大学時代の出会いから新婚生活までのことを書いてあるのだが、涙でいっぱいになった瞳で万感を込めて綴られたその描写に、貧弱ながら自らの若かりし日々をダブらせてしまう。最後の小説「仏陀を買う」は生前の「創作」として発表された唯一のもので、これが一つの軌跡の終点であり新たなる軌跡の始点でもあったとして、出版されていながら敢えて載せたのだという。あの「夏の海」の続きを読みたかった。