蓮實氏独特の文体に酔っているうちに、知らずと小津の世界に引き込まれている自分に気付く。伊丹十三はかって、小津の映画が上映されないことを皆もっと怒るべしと、蓮實氏との対談で語った(『フランス料理を私と』所収、実は岸恵子氏を含む鼎談)。しかし今や、小津がフィルムの表層にやきつけてくれた、穏やかで暖かいかっての日本の家庭生活は、失われたフィルム以外はすべてDVDによって、いつでも鑑賞できるようになった。蓮實氏の功績の一つであろうが、この書によること大である。感謝をささげよう。しかし、氏の唱える「表層批評」の実践がよく為されたという意味においても、歴史的一冊であろう。その表層にこだわる批評の一部始終をじっくり味わっていただきたい。