文学,ことに小説が芸術と呼べるか否かはそれ自身問題であるが,一応芸術の一種とする.そうすると芸術に必須な手続としての模倣の問題を避けて通ることはできない.芸術において作品の価値は手続はどうあれ作品の完成度によって測られるべきである.にも拘らず,この国では誰が誰の真似をした流のゴシップの水準で批評がなされ,その結果として文学が衰えることは不問に付された観があるのは遺憾の極みである.この本は芸術全般,或は世界文学全般への視野を全く欠いたまま従来のゴシップ評論を単純化はしたけれど繰り返した結果,私は日本特有のうすら寒い侘しさを感じる.例えば私の好きな倉橋由美子の '暗い旅' が,二人称をフランスの作家の模倣として日本語で試みたものだとしても,'暗い旅' の持つ個性的な価値に何の影響があるのか,私には判らない.模倣を糾弾するの余り文学が衰弱したのは文学史上の事実である.著者にこの点の理解があるようには見られないのは残念と言うほかない.