古典名作「タイムマシン」「透明人間」「宇宙戦争」等々で名高い「SFの父」と呼ばれた英国文学作家ウェルズの意外な一面を紹介する軽妙でユーモラスな日本オリジナル短編集です。本書に収められた作品は何処か妖しげな怪奇幻想の雰囲気を帯びており作家の料理の仕方によっては悲劇に終わりかねない不吉な題材が多いのですが、著者は元来楽天的な性格と見えて決して暗い悲劇にはせず、多かれ少なかれ必ず読み手を微笑ませてくれます。また本編11編と共に巻末付録2編も味があって楽しめます。
『盗まれた細菌』無政府主義者の男が細菌学者の研究室からコレラ菌を盗み出し緊迫の追跡劇となるが・・・鍵を握る菌「青の破滅」の正体が笑激的です。『奇妙な蘭の花が咲く』蘭収集家が手に入れた奇妙な蘭が恐るべき災厄を招くが・・・読後感の良さに安堵します。『ハリンゲイの誘惑』画家が描いた絵の中で悪魔と出逢う嘘みたいな真実の話。『ハマーポンド邸の夜盗』画家を装いハマーポンド邸のダイヤを狙った男の目論見は大きく狂うのだが・・・。『紫の茸』妻と喧嘩し家を飛び出した夫が絶望し自殺を決意するが・・・正に「災い転じて福と為す」話です。『パイクラフトに関する真実』ロンドン一太った男の身に起きた苦笑を誘う奇妙奇天烈な出来事。『劇評家悲話』劇評家になった為に失恋した男の話で本人には気の毒だが思わず笑ってしまいます。『失った遺産』伯父の遺産を相続し損ねた男が不運を嘆きながらも自業自得と運命を受け入れます。『林檎』列車で会った男から貰った不思議な由来の林檎を疑って捨ててしまった男の一生の後悔。『初めての飛行機』飛行機に乗りたいと熱望する青年が無謀にも初飛行に挑戦し起こした破茶滅茶な大騒ぎ。『小さな母、メルダーベルクに登る』前作の青年が今度はスイスで小さな母を登山に挑ませる。無茶を非難する人々に対し「結果が良ければ」と常に前向きな青年の心意気が清々しいです。