スペインのマンガ家パコ・ロカの長編『皺』と中編『灯台』の2編を収録した書です。
『皺』はアルツハイマーを病み、息子夫婦に施設に入所させられたエミリオと、その施設で同室となる老人ミゲルを中心とした物語です。
現役時代は銀行員としてならしたエミリオが周囲も自分自身も理解できなくなり、大切な記憶すら拭ったように失って行く…。
激しいアクションがあるわけでも、心躍るロマンスが描かれるわけでもありません。強い意欲とたぎる闘志が迫ってくることもありません。老いと病という、避けがたい人間の常を淡々と描く作品といえるでしょう。
傘寿に近い親を持つ私にとっては、やがて来るかもしれない両親の姿を重ねながら、気が重くなる恐怖のようなものを覚えるとともに、裏寂しく悲しい気持ちを強く感じる物語です。
『灯台』はスペイン内戦時代が舞台の物語です。
共和国軍青年兵フランシスコは敗走中に灯台守の老人テルモに助けられる。テルモはラピュータ島という平和の地を目指して船を作っている。フランシスコは不思議なテルモにひかれ、一緒に島を目指すことにするのだが…。
国を二分し、友人同士が銃を向け合い、肉親同士が骨肉相食む争いを繰り広げた内戦。ファシズムの勝利を止めることができず、共和国派が夢と希望を失った時代にあって、それでもテルモとフランシスコは一種荒唐無稽ともいえる平和島ラピュータを目指して力をあわせます。それは何かを信じなければ生きていけないあの頃にあって作り出した妄想の世界なのか、それとも…。
結末がなんとも悲しいと同時に、とてもイカしているという、相反するふたつの感覚を与えてくれる不思議な作品です。生きる上で何かを信じることが欠かせないことをこんな粋な形で見せてくれるとは。
これほど素敵なマンガがヨーロッパ大陸の西のはずれの国で息づいていたとは思いもよりませんでした。