日本のアニメーションが世界を席巻した90年代、欧米で「どうして日本人は、かくも豊かなイメージを持てたのか?」という議論が盛んに行われた。その中で有力なもののひとつが「非キリスト教的伝統の存在」である。キリスト教がヨーロッパを制覇したとき、土俗の信仰は抹殺され、そのイメージも同時に葬られた。トールキンが再興したエピック・ファンタジーは、ヨーロッパの辺境でかろうじて生き残ったケルト信仰や北欧信仰のイマジネーションに、大きく依拠している。(このへん事情はイスラム教においても似たようなものらしい。)
そういう「一神教による土俗信仰の圧殺」から無縁であった日本人は、中世から千年以上の長きにわたり、自由自在に想像力の翼を羽ばたかせることができた。本書を読むと、百鬼夜行絵巻という、実に美しくも凶々しいイメージがどのように生み出され生成発展してきたかが、美しい図版によって実によく分かる。優れた絵師のイマジネーションが、受け継がれ、工夫され、発展していくさまが、それこそ絵巻物を見るように生き生きと語られている。
筆者は「幻想・妖怪物語」の継承者として水木しげるや宮崎駿を挙げているが、現代ポップカルチャーの中にはもっと直接的な百鬼夜行図の継承者がいる。東映の「仮面ライダー」や「戦隊もの」における怪人たちである。彼らは、動物、魚介類、植物、器物を擬人化した「異形の者」であるという点で、百鬼夜行図の実に直接的な子孫なのである。
本書は現代日本の誇るポップカルチャーが生み出された「源流」を眺めることができる、とても楽しい本である。
私たちのご祖先様の闊達自在なイマジネーションを、大いに楽しませてもらった。