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三人が暮らす家の中の、まあちらかっていること。反古にした紙くずは散らばっているわ、その他もろもろ、足の踏み場もありません。その中に、ふとんを引っ被った北斎がいて、父親の代筆を務めているお栄(葛飾応為)がいて、遊び人の弟子の善次郎(英泉)がいて、部屋はこれでいっぱい。昔何かで読んで予想していたとおりのごちゃごちゃぶりでした。
意に添わぬ仕事はしない。しかし絵筆をとって描き始めるや、気韻生動、今にも動き出しそうな龍や化け物なんぞの絵を描き上げてしまう北斎。90歳まで生きた彼がまだ50代半ばの頃ですから、矍鑠(かくしゃく)としていて、一徹な頑固親爺を絵に描いたよう。その父親の許で、自らも浮世絵師としての才能を生かしていくお栄。女遊びをしながら、自分の得意分野で技を磨いていく善次郎。北斎とは対立する歌川派の浮世絵師ながら、北斎の画風を慕って出入りする歌川国直。彼らの生き生きとした息遣いと絵に賭ける情熱が、杉浦日向子さんの漫画から伝わってきました。
そして、絵の中から立ち上り、聞こえてくるような江戸の町のざわめき。物の怪やあやかしが生活の中に息づいている江戸の町の空気。それがとっても素晴らしかった!
例えば、お栄がジャンジャンと鳴る半鐘の音につられてだっと家を飛び出し、よその家の屋根に上って火事を見物する場面。例えば、北斎と善次郎が家の屋根に上って、景色を眺めながら会話をしている場面。例えば、国直と国芳(歌川国芳)が夜道を歩いて化銀杏(ばけいちょう)に会いに行く場面。
話のそこかしこに、江戸の情趣が、江戸の空気が感じられて、心なつかしい思いに誘われました。宮部みゆきさんの時代ものミステリや、藤沢周平さんの時代小説に通じるような味わい。人情の機微のあたたかさや粋な風情が心を明るくしてくれるような味わい。そうした胸に満ちてくるなつかしさ、あたたかさが、杉浦日向子さんの『百日紅(さるすべり)』上下巻にありました。
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