日本SF界が世界に誇る、終末テーマ文学の金字塔。私の長い読書歴の中でも、あらゆるジャンルを通してこれに匹敵する感動を与えてくれた本はまれである。仏教的世界感に基づき描かれた世界の終末、その虚無観、寂寥観は、キリスト教的あるいはイスラム教的世界観や、中華思想に凝り固まった人たちには逆立ちしても書けないであろう、まさに時空を彷徨う詩人・光瀬龍ならではの世界である。海辺に繰りかえし打ち寄せる波のリズムに乗せて星の創生・地球の創生・そして生命の誕生を静かに語る序章。長い旅の果てに訪れた不思議な習慣を持つ村でプラトンが幻視した、アトランティス破滅の真相。覚者(仏陀)となる前の悉達多太子が出家して知ることになった、逃れられない終末の運命。そして阿修羅王との出会い。ナザレのイエスが救世主とされた裏にあった陰謀。そしてそれら全てが、人類が宇宙進出を果たしたはるかな未来における世界の静かな崩壊につながっていく。太陽系創生・地球創生に関する描写は1970年代の科学的知見に基づいたものなため、さすがに少々古めかしいが、その格調高い筆致には今なお感動を禁じえない。特に、「寄せてはかえし 寄せてはかえし」から始まり「夜をむかえ、昼をむかえ、また夜をむかえ。」で終わる序章の10数ページは、朗読したくなるほどだ。