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エイハブ船長は、捕鯨船の出発後に登場して、商業捕鯨という使命を省みず、自身の復讐のために白鯨のモウビ・ディクを追いかけることを乗組員に明かします。ここから、読者は、エイハブという不気味な水先案内人によって、深い航海へと導かれていくのです。
主人公イシュメイルの口を借りながらメルヴィルが語る未開人クィークェッグの姿には、文明社会と未開社会の両方への暖かい目が注がれているように感じられます。二人の交流は心温まるものです。むしろ、二人が代表する人間世界同士の対比を越えて、人間と自然との関係が浮かび上がって来るようです。
その二人の後に登場するエイハブは、人間と自然を含んだ全世界をつつむ運命との対峙という構図を提示しているように思います。
上巻の中では、九章の「説教」の描写が特に秀逸です。
これは、港町の教会でマプル神父が説教する場面です。教会は船、神父は船長、信者は乗組員に擬せられて、鯨に関係する聖書の一節が語られていきます。マプル神父の説教は、嵐の中で号令する船長のような威厳を持って、読む者の心の中に力強い言葉を響かせます。
メルヴィル自身の古典文学への深い造詣と文体、それに古い漢字を多用した翻訳とが合っているように思います。各章のほとんどに版画の挿絵が挿入されており、荒削りな版画の描写が厳しい海の世界の印象を強くしてくれます。
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