物語全体に関するレビューは他の方にお譲りしましょう。
ドストエフスキーの作品には、
一見筋とは全く関係ないように思えることを、
語り手が突然熱く語りだす脱線とも思える個所が何度も出てきます。
(しかし、よくよく見ると、決して脱線ではないのですが)
この脱線が、なんというかどれも読ませるものばかりなのです。
たとえば本書第四編冒頭で展開されるガーニャの心理分析。
ここで作者は彼を、独創的な人間でありたいと思いながらも、
ずっと聡明なありふれた人間に過ぎない、と言っています。
単なる平凡な人間であったなら、
ガーニャは、もっと楽に生きられたでしょう。
しかし、彼は不幸にも聡明だった。
どんなに努力したところで、あと一歩のところで
天才にはなれないという、自分の限界を見極められるほどに。
かといって、中途半端な能力に恵まれているがために、
彼は平凡な人のように分をわきまえて生きることもできません。
このガーニャのようなタイプの人、結構たくさんいると思います。
個性的であろうとして、わざと人と違うことをしようとする人。
作家や画家、ミュージシャンといった職業を、
「創造的である」という理由で、ほかの職業の上に高める人。
自分には才能があると思いながらも一方では恥をかくのが嫌で、
公の場に出る勇気はないくせに、他の人の才能をけなしてばかりいる人。
こういう人、身近な所で見かけませんか?
このガーニャの心理分析を読むためだけでも、
この作品は一読の価値はあると思います。