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白土三平論
 
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白土三平論 [単行本]

四方田 犬彦
5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (7件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

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   白土三平――。1932年生まれ。大長編漫画「カムイ伝」や「忍者武芸帳」の作者、まさに巨匠と呼ぶにふさわしい存在である。だが、1960年代に熱狂的なブームをもって迎えられた白土作品は、その後、漫画文化の一線から退かなくてはならなかった。なぜこうしたことが起こったのか。

   本書は、10歳の著者が「微塵隠れの術」を本気で再現しようとしたエピソードからはじまっている。微塵隠れとは、白土の少年忍者漫画「サスケ」に出てくる忍法のひとつ。洞窟の奥に仕掛けた火薬で敵を倒す、という技である。もちろんこの試みは失敗するのだが、ことほどさように著者は白土作品を愛し、40年にわたって読みつづけてきた。批評家として、みずからの核に白土漫画があるとさえいう。その著者が750枚というボリュームで本格的な白土論を書き下ろした。いわば、「本気中の本気」が結実した仕事だ。このような書物に出あえることこそ、読書の醍醐味といっていい。

   とはいえ、本書は単純な白土賛歌ではない。父・岡本唐貴(1903-86)が画家、それも左翼美術史上の重要人物であったこと、信州での孤独な疎開生活、さまざまな表現技法を身につけた紙芝居制作など、後年の白土漫画に影響を及ぼしたと思われる伝記的事実を次々と掘り起こす一方、作品そのものに対しては冷静な批評者の目を保ちつづけている。なにしろ、戦時中の強制連行をあつかった初期の少女漫画を重視する一方、みずから熱中した「サスケ」に対しては、「作品としての質は、かならずしも高いとはいえない」と言い切っているぐらいだ。

 「忍者武芸帳」(1959-62)で重要なモチーフとなった階級闘争史観は、「カムイ伝 第一部」(1964-71)にいたって差別問題への考察や民俗学的要素を盛り込み、大きく花開く。農民、抜け忍、侍といった登場人物が、それぞれのユートピアを求めてさまよう姿は、学生運動の闘士たちを熱く駆り立てることになった。だが、バイブルと仰がれた白土漫画も、左翼運動の崩壊にともない、急速にかえりみられなくなっていく。「革命」や「闘争」に疲れた人々は、かつての聖典を封印してしまったのだ。この過程を描き出す著者の筆は、歴史叙述と呼ぶべきほどの重みをもっている。

   だが、白土はけっして過去の作家ではない。その後も、民俗学的・神話的なイメージに彩られた作品を発表しつづけ、「カムイ伝」そのものも、いまだ描きつがれている。ことによると、真に重要なのはこれからなのかもしれない。巨人の筆がふたたび時代と重なることがあるのか、もしあるとすれば、それはどんなかたちをとるのか、著者とともに見据えたい。読後、そうした思いに強く貫かれるのである。(大滝浩太郎)

内容(「BOOK」データベースより)

『忍者武芸帳』に世界観を学び『カムイ伝』に自己同一化した60年代。熱気溢れる時代の青春に圧倒的影響を与えた白土漫画の全貌を初めて解明。40年を超える愛読の成果を凝縮する画期的考察。

登録情報

  • 単行本: 345ページ
  • 出版社: 作品社 (2004/02)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4878936339
  • ISBN-13: 978-4878936333
  • 発売日: 2004/02
  • 商品の寸法: 20.8 x 15 x 3.4 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.0  レビューをすべて見る (7件のカスタマーレビュー)
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13 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By lacopen
形式:単行本
~四方田犬彦は初期の「クリティック」でひと味違うマンガ論を試み、期待された。その後しばらく経って、夏目房之介が表現論を切りひらくほぼ同じ時期に、雑誌に「コミックスの偶景」を連載し、それは「漫画原論」のタイトルでまとめられたが、以降夏目とは対照的に、表だった活動は見られなくなった。「漫画原論」は夏目表現論と呼応し合う重要な本ではあるが~~、もとのタイトルの片鱗も見られない、原論、と名づけてしまうところにやる気のなさのようなものが感じられ、正直のところ落胆させられた。
~~
瓜生吉則氏は、マンガでなくても語れることをマンガにかこつけたにすぎない社会反映論的マンガ評論への批判として現れた「マンガをマンガ自体として評価する」マンガ論に、<わたし>語りが織り込まれていることを指摘した。表現論は評者の感性に依存しないマンガ論の試みと言えるが、マンガを記号どころか「コマ」と「描線」にまで還元しようとする夏目のラ~~ジカルな意思も、模写によって得た経験を拠り所としていることで、マンガの「思想」や「生理みたいな場所」を描線やコマのなかに読み取ることは夏目の生理や思想が感応するところに限られるであろう。しかし問題は<わたし>語りから逃れられないことではなく、瓜生の言うように表現論が批評が一方的にマンガを選ぶ議論の恣意性を許容するお手軽な分析道具と~~化することである。四方田は現在のマンガ評論が極端に手塚に偏り70年以降白土を論じたものが皆無であることに愕然としながらも、子どもの頃微塵隠れの術を本気で試みた体験談からはじめて、デビューから現在に至る膨大な作品群を白土およびその関係者への取材と助言を頼りに丹念に採りあげていく。白土との出会いがなければ文筆と無縁であったかもしれないと最~~後に語られる本書は、40年以上に及ぶ白土読者としての経験からしか語り得ない証言として、未だかつてきちんと試みられていないマンガ史へと委ねられている。~
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16 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:単行本
 僕は著者の四方田氏より10歳ほど下の世である。60年代に青春期を過ごした者と、幼少期を過ごした者の差は大きい。僕が青春期に差し掛かった頃、すでに“白土三平”は世間一般的な意味を失っていた。数十年が経ってから、ある種の古典として作品と接するのならばまだいい。少しだけ遅れて来た者にとって、全共闘や赤塚不二夫や高倉健やゴダールや白土三平...の意味をフラットに捉えることはなかなか難しいことである。憧憬的な部分だけが増幅したり、逆に否定的な先入観を持ったり、まあ少し上の世代に対する見方というのは、常にそういうものなのかもしれないが。当時、白土三平の作品は身近には感じられなかったが、少し上の世代が白土三平を触れられたくない過去として遠ざけていたいた気配だけは強烈に感じていた。
 四方田氏によれば、白土三平の本格的な評論はこれまでにほとんど無かったという。それがまず一番の驚きだった。実体を見たことはないが、それこそ、まるで忍びの者のように気配だけは濃密に感じていた“白土三平”に研究書がないという事実。今回の著書は、代表作のストーリー解説にかなりのページが割かれていて、そこから書き起こさなければならない、著者の苛立ちのようなものも感じられた。
  そして、通読して感じたのは、上の世代(あるいは下の世代も含めて)は、白土三平だけでなく、唯物史観や階級闘争といった諸々の事柄を、表向きの敗北でうやむやに封印してしまい、結局何の決着もつけないままに、いまだ様々な問題を引きずり続けているということである。
  今回の四方田氏の著書は労作である。この白土三平論を起点として、単なる懐古ではない、現代につながる世代を超えた論議が生まれることを望みたい。
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2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By 馬場伸一 トップ500レビュアー
形式:単行本
白土三平のコアな読者は今50代以上のいわゆる全共闘世代であろう。
評者はその下の世代で、「忍者武芸帳」などの同時代的な気分の高揚を経験しているわけではない。しかし、日本マンガの一読者として、何か非常に大きな「存在」として気配を感じていたのは確かである。
そういう「漠然と知っていたが詳しくは知らない」偉大な作家が見事に絵解きされるという意味で、本書は非常に楽しんで読めた。
特に、幼い頃に読んで異様な衝撃を受けた夏草冬虫をめぐる物語が、白土の作品であったことを知っただけでも個人的には買ったかいがあったと思っている。
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