まずこの作者は志が高い。前年に流水大賞優秀賞を受賞しデビューした小柳粒男や泉和良とは比較にならないというか、比較すること自体失礼だ、と思わざるをえないほど、作者が見据えている作品のレベルは高く、作家としての実力も遥か上をいっている。極めて論理的な文章を構築する能力があり、一つ一つの文節の密度が濃い。
だが反面ストーリーに緩急がなく、「どうでもいいだろ」と思うような描写が多々ある。面白くないというか、知的好奇心を刺激されない。作者からすれば必要な細部だったのかもしれないが、書き込めば書き込んだだけ得るものもあれば失うものも当然ある訳で、読者にとって退屈だったり、物語上必ずしも必要ではない情景、伏線でも何でもない描写の場合、一人よがりな表現と紙一重ではないだろうか。主人公から全能感を消しているところは評価するが、全体に登場人物から魅力を感じない。ステレオタイプというか無難というか、ストーリーそのものにも言えることだが、かなり既視感がある。ミステリとしては衝撃に欠けるし、描かれている人物はみんなヌルい。物語もヌルい。「あなたは何がしたかったんですか?」という作者に対する疑問が残る。
この作品が新しいか否か判断するなら、正直なところ古い、と個人的には思う。文章のレベルは高いのだが、読み進める上で苦しいし、疲れる。たとえるなら、お寺や神社でよく見かける一段一段が奥行きのない階段をずっと昇らされているような感覚だ。文章が流れない。駄目という訳ではないが、京極夏彦や舞城王太郎、西尾維新などの文体が持つ心地良さは、求めたところでないということだ。
この作品から「優れている」という印象は受けるが、「スゴい」とか「ヤバい」という次元には届いていない。けれど間違いなく才能はある。この作者が純粋に「面白い」方向へ突き抜ければ、衝撃的傑作が生まれる可能性は十分にあるはずだ。