現在日本の電機メーカーに勤めながら執筆活動を続ける在日イラン人女流作家ネザマフィが著した2009年度文學界新人賞受賞作と2007年度留学生文学賞受賞作の2作品を収録するデビュー中編小説集です。外国人の方が日本の文学賞を受賞するのは中国の楊逸さんに続いて二人目で、こうして日本語で書かれた作品であれば外国人にも参加資格を与え門戸を開くのは、とても良い事だと思います。
『白い紙』本作は著者の故国イランを舞台にした若者達の青春小説で、題名は教師が生徒達に向けて未来に様々な可能性を秘めた今を真っ白な白紙に例え「悔いのない色に染めよう」と呼び掛ける言葉から来ています。主人公の高校生の少女(名前は書かれていません。)は戦争医師の父の仕事の関係で首都テヘランから母と田舎町に引っ越して来て、男女共学の高校に通う内にテヘラン大学への進学を目指す優等生の男子生徒ハサンと知り合う。若者達の大半が戦争に駆り出され兵士として出兵して行く社会の中でプレッシャーを感じる彼を、彼女は先生と共に励まし応援するのだったが・・・・。男女学生が話す事を許されない事や女性が外出時にチャドルという黒い衣装に身を包んで容姿を隠す風習に閉鎖された異質な社会を実感しました。前途ある若者達が国の大義の為にどうしようもなく追い詰められていく過酷な社会に遣る瀬無い憤りを覚えました。
『サラム』入管という外国人の入国を審査する役所でアルバイトとして日本で働くイラン人女性通訳の私が弁護士の田中先生と共にアフガン人女性レイラを救おうと努力する物語です。サラムはダリ語で降伏、救い、平和を意味する奥深い挨拶の言葉です。無制限に外国人を受け入れられない我国の事情も十分理解出来るだけに複雑な思いに駆られます。
本書は平和な国日本と中東の過酷な現実を対比させて身近に戦争がない国で暮らす事の幸せに気づかせてくれる非常に意義深い作品集だと思います。