本書はカーター・ディクスンの最高傑作で、本書の密室トリックについては、江戸川乱歩が「カーが発明した不可能犯罪のトリックの内でも、最も優れたものの一つ」と激賞しているとおりである。
カーター・ディクスンは、最初の作品『弓弦城殺人事件』と、ヘンリ・メリヴェール卿初登場の『プレーグ・コートの殺人』から2作目の本書、3作目の『赤後家の殺人』までは、当初ディクスン・カーをひっくり返した「カー・ディクスン」という名前であった。
そしてこのカー・ディクスン名義の作品(とくにHMが登場する作品)に、後にカーター・ディクスンに統一されたディクスン名義の傑作が集中している。
(以後の作品でこの3作に匹敵する作品は、『ユダの窓』ぐらいだろう。)
本書を始めとするこの3作に共通して言えるのは、そのトリックの独創性と切れ味のほか、張りめぐらされた伏線がきちっとパズルのピースの一片であるがごとくにあてはまる、作品全体の緻密な構成にある。
とくに本書においては、死体の発見された別館の入り口には発見者以外の足跡が残っていないという「雪の密室」の謎と、複雑にちりばめられた伏線に対し、HM卿のたった一言でトリックの全貌が明らかにされる、その単純明快さゆえの「ああ、そうだったのか!」という衝撃が実に心地よく、その衝撃と快感は、ディクスン・カー名義の最高傑作『皇帝のかぎ煙草入れ』に匹敵するものである。
しかし『皇帝のかぎ煙草入れ』もそうであったが、本書にはカー独特の怪奇趣味が薄いため、残念ながらカーの真価を味わうには十分とは言えない。
とはいえカー初心者には、『皇帝のかぎ煙草入れ』よりも本書の方が、密室という不可能犯罪に正面から挑んでいる分、カーの持ち味(ほんの「さわり」ではあるが)を知るのに適していると思う。