発達障害の人の就職について,初めて出版された本格的な書籍である。
これまでも、発達障害の人のための就職に触れた本はいくつがあるが、
就職だけに的を絞って書かれた本は本書が嚆矢である。
ぼくはかつて、新入社員で声の小さいレジ係の人を声を荒らげて怒ったことがある。
あまりに応対がのろく不手際だったからである。
しかし、そのすぐ後に、「もしや,あの子は発達障害ではないのか」
と気づき,翌日再び買い物に行き謝った。
「ごめんね,昨日大きな声出して。ゆっくりでいいよ,正確にやれば」
でも,さらに数日後から、その新入社員は顔を見ることがなくなった。
異動しただけならいいんだけれど。
発達障害の人は、その障害を知らなければ、社員としては
いわゆる「できない奴」である。
プライオリティが分からない。
言いつけた要件がすぐに飲み込めない。
ちょっと、たてこんでくるとパニックになる。
まるで子供の使いのようである。
理屈ををこねて腰が重い。
報告相談連絡ができない。
取引先との雑談でも場の空気が読めず、自分の話ばかりする。
あっと驚く漢字の間違いをする。
例を上げていくと悲しくなってしまうが、これは発達障害の人の特性で
裏返してみれば長所、美点でもあるのだ。と,普通の人に縷縷説明してもなかなか分かってもらえまい。
(「言いつけた要件がすぐに飲み込めない」→「分かりは遅いが、一旦飲み込めば誰よりも真面目に丁寧に取り組む」など)
だからこそ,発達障害の人には,職場の理解と,仕事との相性をマッチさせることが絶対必要になる。
サヴァン的能力(数学や語学や芸術面で常人には及ばない能力を持つ)を持っていれば,そこを伸ばしての就職も
考えられるだろうが(この場合でも就社はなかなか難しいだろう)大多数の発達障害者は社会生活に困難を抱えるだけの人びとだ。
著者は,障害手帳をとっての特例就職を勧めているが、その手帳も障害が薄いと,なかなかもらえないのが現状だ。
薄いと,なかなか障害にも気ずいてもらえないし、薄いほうが,目に見えてわかる障害とは違って、
社会生活では却って困難を増すという側面もある。2次障害で「うつ」になれば手帳はもらえるそうだが、
それじゃあ,2次障害になるのを薦めるようで変だ。もちろん2次障害になんかならない方がいい
世の中には善意の人も数多いが,そんな善意の人も,
普通を普通に行えない人に対しては、つい悪意をむき出しにしてしまうこともある。
発達障害の人が自尊心をきちんと尊重されつつ,人生を送れて、
国民の義務をきちんと果たせるようにするにはどうすればよいのか、
ぼくはこの本を読んでも考えあぐねて、まだまだ悩むばかりである。