著者の杉山登志郎医師には、お会いしたことはないが、これまでの著書や、
自閉症者の療育に関する活動で知る限り、日本で十指に入る、
自閉症スペクトラム・発達障害の権威である。近頃たくさん発売されるブーム便乗型の
“発達障害本”の筆者とは、はっきりと異なる。
その杉山氏が書いたこの本には、いくつかの衝撃的な事項が記されている。
・2型糖尿病は、遺伝的因子が多く関わっているが、そのリスクをさらに高めるのが
肥満であることがはっきりと分かっている。その例と同じように発達障害のリスクを
高めるのが「虐待によるトラウマ」だ。これまでは、発達障害児の扱いにくさが
のちに虐待やいじめを引き起こすことは知られていたが、この場合は、逆で、虐待が
発達障害の器質的な因子にスイッチを入れてしまうということなのである。
これは衝撃である。かつて自閉症児の母親たちは「育て方が悪かったのではないか」
といわれて苦しんできた。その後母親たちは自閉症は何らかの脳の器質的異常が、
関わっているのであって、育て方の問題では無い。とされ、保護者は大きな安堵を得たのである。
杉山医師は慎重に言葉を選んで「育て方の問題」という言葉は使っていないが、
虐待が後天的なリスク因子となるということは、それを覆すことになるのではないか。
ただし、発達障害児であってもなくても虐待を受けることが精神上よいわけはない
ことは明らかではあるので、虐待は発達傷害を悪化させるという意味に読むべきなのだろうか。
糖尿病のたとえで言うと、肥満がなければ2型糖尿病は、発症することがないケースも
多くあるのである。私の誤読なのであろうか。
・EMDRという治療法の劇的効果。フラッシュバックの治療に劇的効果を示す杉山医師自ら
「オカルティック」だという方法である。
私は、これは専門家の適切な管理下で行うべきだと考えるので、あえてやり方を説明する
ことはしない。
・日本の臨床心理は、大多数が精神分析を基盤とする力動心理学で占められている。(中略)
だが、力動心理学で対応できる問題は、実は限られている。認知行動療法のほうが、
適応も広いし安全性も高いと思う。これは同じ精神科医の中の発言としては勇気ある発言
だと思うという点で取り上げた。私も同感である。杉山医師はそうは言っていないが、
精神分析は発達障害の対応には不適切だということである。