ベルは脇役でほとんどエジソンの評伝である。
エジソンについての従来の偉人伝的な虚像を一掃している。日本初のエジソン正伝といいたい。多くの伝説の内幕が暴露されるのが痛快。特に「交流戦争」については、エジソンの強引で頑固な性格を浮き彫りにしている。電球のフィラメントに京都の竹が採用されたいきさつには、今のテレビのヤラセ演出家も脱帽もので、ただあきれる。
エジソンに倫理感が欠如していることを、幼少時のエピソードから指摘しているのにも説得力がある。エジソンの詐欺師的で暴力的な性格を、これほど歯に衣着せず批判した書物はなかったと思う。
しかし単にエジソンをおとしめるのではなく、51ページに『先頭でゴールする勝者は、それなりの実力を持っているのだ』とあるように、公平な姿勢を保っている。
その他、豊富なエピソードに感嘆する。ベルが電話で最初に伝えたメッセージの事情、ビクターの犬のマークの由来、電気のコンセントの最初の用途、フィルムの規格の起源、などなど。
著者の体験が随所に登場するのが、また非常に適切で、面白味を増している。イギリスの電球の話、小学生時代モールス符号の練習をした話、蝋管蓄音器を学生に制作させた話、円筒と円盤レコードを聴き比べた話、「アクロイド殺人事件」の話など、1冊の本に盛りこむのがもったいないほど密度が高い。
文章も名文。短文を連ねることにより独特のリズムを作り出しており、歯切れがよく読みやすい。