黒光りする蒸機や葡萄色の電機、美しい塗色の列車が、40年の時を超えて甦ります。コダクロームの写真はつい最近撮影したかのような素晴らしい発色で、たとえ鉄道に興味がなくても、色鮮やかな美しい風景に魅了されてしまうでしょう。圧倒的な存在感の空と雲、ビルのない街角、どこまでものびやかな郊外、野外広告のない世界……21世紀の日本からは永久に失われてしまったものが、当たり前に存在しているのです。しかもそれらが、有名な風景や撮影地でないのもいい。名もない景色でも宝石のように輝いていたことがページを繰るたびにわかります。見終えた後は、深いため息とともに、かけがえのない大切なものを失ってしまった哀惜の念が胸の奥深く沈殿します。当時の旅について語る著者のモノローグも写真に劣らず魅力的です。欲を言えば、撮影地の索引があれば、と思いました。