わが国の社会が痴呆老人に対して抱いてきたイメージの変遷についてまとめた書。痴呆老人に対する偏見は現在も根強く残っているとみる著者は,現状を打開するカギとして,非営利組織(NPO)などの自主的な取り組みに注目する。
―執筆に至る動機を。
新村 今から20年ほど前,私の父は,発熱を境に痴呆を発症しました。脅迫観念に駆られ警察に通報するなど,痴呆の症状はかなり進みました。父は精神病患者として扱われ,初めに受診した内科医は父を精神科に紹介しました。
その医師は,「入院させた場合,ほかの精神病の患者から危害を加えられるかもしれませんから注意してください」と平然と言いました。私は,こうした実態を当たり前のように容認している医療の在り方に疑問を覚え,痴呆老人の歴史をまとめようと思い立ちました。本書では,社会が痴呆老人をどのようなイメージで見てきたかについて,時代ごとに記しています。
―痴呆老人を取り巻く環境はどう変化したのか?
新村 江戸時代までは,忠孝,道徳といった儒教思想,および祖先を敬う祖霊信仰の考え方が強い影響力を持っていました。五人組といった連帯の組織が作られるなど,地域ぐるみで熱心にケアが行われていました。医療についても,現代のように西洋医学中心ではなく,東洋医学が主流で,疾患は適切に処置することで元に戻せる可逆的変化とされていました。
ところが,近代化の進行に伴い核家族が増加し,家族に痴呆老人を介護する余裕が無くなっていきました。痴呆老人を大切にしなければならないという従来の考え方が残っている半面,老人の世話に時間を取られていられないという現実からの要請も生じてきました。
また,明治政府によって西洋医学が採用されると,痴呆は不可逆の変化と考えられるようになりました。その結果,痴呆老人は精神病者として扱われるようになり,同時に偏見も強まりました。
―現状を打開する策は?
新村 西洋医学のアプローチ自体は正しいと思いますが,その中に東洋医学的な治療の思想を取り入れることもできると思います。栄養状態を改善させるなど,全身を診ることを基本とする伝統的な治療は,今も通用するでしょう。
その上でケアが重要だと思います。私は,NPOに期待しています。9月初めに,NPOが運営している日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会に出席しました。参加者は3000人に上り,医師を含めて様々なバックグラウンドを持った人々が,自ら進んで介護事業などを行っていました。
行政サービスには,経済面や提供されるサービス内容自体に多くの制約が付きまといます。しかし,NPOなら自由な発想でサービスが提供できます。NPOの取り組みが痴呆老人の介護にも広がれば,痴呆老人を取り巻く環境はかなり改善するのではないでしょうか。
(日経メディカル 2002/10/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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