そして本作のテーマは「心の障害」である。精神科医の榊は、病院の問題児である少女・亜左美を担当するが、前任者の下した診断に疑問を抱きはじめる。彼は臨床心理士の由起と力を合わせ、亜左美の病根をつきとめようとする。
きわめてタイムリーな素材に思えるが、7年前から構想を練り、多くの時間を費して文献を読み込んでいたという。その間にさまざまな映画や小説で扱われた多重人格(解離性同一性障害)が、ここでも重要なテーマの1つとなっている。
しかし、本作はあまたのサイコ・ホラーとはっきり異なっている。センセーショナルな描写や筋立ては極力排され、精神疾患という「異世界」で苦しむ患者たち、彼らを助けようとする医師たちの姿が共感をもって描き出される。その姿勢がケレン味のなさとしてあらわれる部分もあるが、サイド・ストーリーとして重要文化財の贋作疑惑を配するなど、巧みな展開で補っている。読後、多くの人が、心の障害は決して特別なものでないと気づくだろう。いわゆる「普通人」と「患者」との間にある垣根の低さに慄然とするかもしれない。そう感じられるのも、全編に充ちた誠実な眼差しがあればこそである。(大滝浩太郎) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
登録情報
|
この商品につけられているタグ(詳細)タグをクリックすると、タグがつけられた商品、タグをつけた人が表示されます。※タグは初期設定で公開になっています。詳しくはこちら
|
|
あなたの意見や感想を教えてください:
|
||||||||||||||||||||||
|
最も参考になったカスタマーレビュー
13 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
・転・はスゴい!,
By もきち (東京都練馬区) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 症例A (角川文庫) (文庫)
起・承・転・結の転まではスゴいですね。一気呵成に読んじゃった感じです。他の方も仰っているように、「結」が弱いというのは否めないと思います。 ウチの娘に、この本は面白いからって読ませたのですが、「一気に読んじゃったからストーリーは面白いんだろうけど、最後はどうなってんの?」と少々不満げな様子でした。 「結」に重きを置くかどうかによって評価がかなり違うように思われます。 ワタシ的には十分面白い小説だと思いますが・・・。
4 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
リアルだが、最後が残念。,
By
レビュー対象商品: 症例A (角川文庫) (文庫)
精神医学のことはよくわからないが、こういった事例はたくさんあるのだろうか。それにしても患者亜左美の人を振り回す悪質さ。不覚にも読んでいるだけで腹が立ってきた(苦笑)。榊が亜左美の診断にとまどう姿はリアルに感じた。亜左美のあの行動の数々は、簡単に病名の診断を下すことができない支離滅裂さだ。 そして臨床心理士の広瀬由起。初めは主人公の精神科医榊と協力して患者の治療に当たる役割なのだと思っていたが、まさか広瀬自身も精神医学的問題を抱えていたとは・・・。 こんなにリアルで読み応えのある作品だが、途中から「おやおや」という展開になってくる。亜左美と広瀬に共通する症状。そんなにこの症例には頻繁にお目にかかるものなのか?と。ただ、精神分析医の岐戸と榊の、多重人格についての真剣なやりとりはかなりページが割かれていて読み応えがある。 最後の方の榊の亜左美と広瀬に対する対応は、精神科医としてはどうかと思う。精神科医が患者に対して保つべき距離を越えて相手に踏み込んでしまっているように感じる。実際の治療場面ではどうなのだろうか。この作品には患者の治癒という結末はないが、今後の治療にはマイナスではないかと感じた。続きがあるとするならば、これは主治医交代か、治療失敗、榊の精神的破滅といった悲劇に向かうような、そんな気がしてならない。 博物館の方のエピソードと2本立てで話は進むが、精神科病棟の話だけで読んでみたかった作品。
6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
惹きこまれる妄想,
By
レビュー対象商品: 症例A (角川文庫) (文庫)
あまりにも面白くて一気に読んでしまいました。聞き覚えのある公立の博物館や戦時中のエピソード、そして精神科の病気の記述etc.… 物語がどんどん盛り上がってもっともっと先を!と思えば思うほど薄くなっていく残りページに不安がよぎったのは否めません。 そして、結末は… 続編があるのでしょうか。このままでは終われません!
あなたの意見や感想を教えてください: 自分のレビューを作成する
|
最近のカスタマーレビュー |
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|
|