専門家によって書かれた専門書であるが、学術的な専門知識とは無縁であってもかまわない人間に向けられている。また、タイトルの「病んだ」という言葉と、筆者の職業(精神神経科医)からイメージされるような、こころの病のみを抱えた家族や個人に対して書かれているわけでもないところに注目したい。いまだ偏見まじりで目を向けられる精神、神経、心理…すなわち「脳」に関するほとんどのケースを、この本は扱っている。精神病理・神経症・痴呆・心理的弊害、障害・老化による病状(老人以外の同様の症状の人物も含む)への介護態勢や単純な接し方 あるいは心構えなど、広い切り口で伝えられる的確なアドバイスは、その病理に悩まされる本人にも、周囲でそのサポートや介護にまわる人??たちにとっても、重要なものだ。もし可能ならば、患者と介護者という対峙する位置関係を有する者たちが一緒に読むことができれば、とわたしは思う。その両方をおわなければならない境遇の個人にももちろんお薦めしたい。今までわかりえなかった相対する立場のスタンスや心情の相互理解に、おおいに役立つ事柄が、本書にあふれていると思うからだ。筆者独特の、非常にフランクで親しみの持てる文体。筆者の体験談から語られる、正直な医療現場でのことば。筆者の得ている学問や臨床例から導きだされる、より専門的な事例や書物への入り口となる他所からの引用文。より的確な多様な症状に関する「介護」や「理解」や「容認」を必要とする本人、またその本人の周囲に居る人間にとって、たいへん参考になるはずだ。
専門的な世界へと広がる扉となる内容であり、医療の現場と知識を重要視しながらも、日常、それこそ「医療でない現場」をも大切に扱った、名著であり実用書である。