バイロン・グッドらと共に、アメリカにおいて臨床人類学という学問を定着させた功労者であるアーサー・クラインマンの定評ある名著。
著者の主張を要約するとこのようになる。「病い」は客観的プロセスというよりは、患者によって生きられる歴史であり、何よりも語られるもの(ナラティヴ)である。そして患者による病いの語りを臨床に携わる者はまず傾聴するところから臨床ははじまる。そしてひとにとっての「病い」の認識や意味を知ることが「臨床人類学」であり、臨床者に求められるものである、ということだ。
この発想は、「病歴」を客観的かつ科学的に考えるという、従来の西洋医学の考え方とは対立する。しかし、著者の主張は、医療者側は今まで「病気」だけを視、「病い」を視てこなかったのではないか、というものである。
もともと著者は精神医学者としてスタートしているが、メンタルヘルスに携わる人だけを本書は対象にしているわけではないことに注意が必要だ。むしろ、本書はわれわれに「病い」とは何か、という問いを突きつける本なのである。
この考え方はさらに鷲田清一の「臨床哲学」によって、患者のナラティヴを傾聴することが「癒し」になる、とする「聴くことの力」という形でさらに発展させられていることを指摘しておく。
医療従事者のみならず、病む人と接するすべての方にお勧めできる。