歴史研究における「中華思想」の
徹底的な相対化を試みる著者の史観は
いつもながら新鮮で、一定の衝迫力があるのだが、
本書は一般向けの啓蒙書・概説書としては、
いくらなんでも、全体のバランスが偏り過ぎだと思う。
タイトルに含まれる四王朝(遼 西夏 金 元)のうち、
著者が「キタイ国家」と呼ぶ遼王朝と
五代の一角をなすトルコ系沙陀軍閥(後唐)との抗争については、
おそろしく微に入り細を穿った記述がなされており、
「キタイ国家」を扱った部分だけで、全体の
半分以上の紙数(250頁超)が割かれているのだが、
西夏と金の二王朝については、ほんの30頁足らずの
短い一章だけで、簡単に片付けられている。
まるで、モンゴルの先駆者「キタイ」については、
いつか詳しく書いてみたいと思っていた著者が、
いささか趣味的に、想の赴くまま書き進めた結果、
ようやく西夏と金にたどり着いた頃には、
すでに紙数も興味も尽きてしまっていたかのようだ。
著者に好意的に考えるなら、おそらく西夏と金については、
まだ漢文資料以外に基づく研究がさほど進んでおらず、
「中華思想」からの脱却を唱える著者にとっては、
満足の行く記述をなし得るだけの材料が
じゅうぶん揃っていないということなのかもしれないが、
直前の07巻には、北宋を滅ぼした金王朝については、
次の巻で詳しい記述があるはずと予告されているのに、
最低限の概説書的な記述さえ省かれているというのでは、
読者に対してやや不親切ではないかと感じたのも確かだ。
(結局、金王朝についてのまとまった記述は、
本シリーズからは抜け落ちていることになる。)