刊行直後に購入したままだったのが、ふとしたきっかけで、読み始めた。
これまでのマクロ経済学のパラダイムを批判し、新しい展開方向を示唆している。
当方シニアのアマチュアにも興味の尽きない本である。
まず、これまでマクロ経済学は典型的な企業と消費者、労働者など、つまり
経済エイジェントは、すべて効用・利潤最大化を求める同質的な主体の集合体と
みなしていた。また従来、GDP,失業率などマクロ数値は、もう動かない確定
した数値として扱われた。
青木氏は経済主体はさまざまな特徴を示す異質的なエイジェント(企業、消費者など)
からなるマクロ集合体と規定する。すべて同じ主体ではない、と。
分析の方法をみると、これまでは経済量は総和や平均が重視されたのだが、新しい
マクロ経済学では、これら諸量はミクロ的な個々のエイジェントの行動によって生ま
れるものであり、またこれまで無視された、ミクロ的な活動によって「確率的」に動
くものと考えられる。
以上は、マクロとミクロの結合、関係の話である。
本篇は全11章と、数学付録からなる。
はじめの2章において、新しい分析の基本となる、「マスター方程式」が解説さ
れる。
ここでは一般的に、確率的な運行が導入され、時間tにおいて状態X(t)が生じる確
率P(t)の時系列的な変化が考察される。
この際ある状態Aから別の状態Bに移行する「遷移率」w(ab)をもちいて、ある状態
の生じる確率P(t)の増減が、マスター方程式で表現されるのである。
ここでの「状態」はさまざまである。
エイジェント群のなかの異質的な要素の構成の変化が「状態」の基本例であるが、
異質的なエイジェント要素の相互の移り変わり・変化が、特定の遷移の仕方で表さ
れ、つまり、エイジェントの内部構成の変化が数学的に表示される。
そして、この相互変化の結果、どのような均衡状態が生まれるか、そしてこの時の
個々のエイジェントのミクロ的な分布が追及される。
著者のマスター方程式の表現は、類書に比べて素直であるように思われる。
それゆえ、当方アマチュアには、やや難しい理論展開も、比較的わかるように書か
れている。
3章は,マスター方程式の、母関数を用いた解き方が丁寧に解説されている。
4章以下、具体的に様々なエイジェントを例に、さまざまな経済現象と経済主体の
相互変化の均衡・内部分布、さらに均衡値からのゆらぎ、などが分析される。
さまざまな例が示されている。
詳細は紹介できないが、エイジェントの例は、技術の先進的な企業群と模倣する
群とか、成長企業と停滞企業の群とか、異質的な要素を含むエイジェント集合の
内部変化と要素の確率分布と均衡が考察されるのである。
11章まで、紹介できない内容が多いのだが、これは、実際に本書で見てもらうとして、
最後にかなりのページを使って、重要な概念と数学的な解説がついている。
ギッブス分布、ディリクレ、ポアソン分布、チャプマン=コルモゴロフ式、その他
重要な概念が出てきていて、著者が本書において、これまでの経済分析の方法だけ
ではなく、数学と物理学など多様な科学を渉猟して、一般的に科学においてその基
礎をなすより根源的な方法を探求し、これら確率的道具がマクロ経済学ではいかな
る有効性があるのか、を示しているように思われる。