ルドヴィヒ二世に始まり、グルジエフ、プルーストの小説に出てくるシャルリュス男爵のモデルとなった?貴族、ベックフォード、ジル・ド・レ、サン・ジュスト、皇帝ヘリオガバルス・・・男色や殺人に耽溺した特権階級の人間についてのエッセイです。
エッセイなので、いちいち懇切丁寧な背景説明があるわけではありません。
知りたいところがはしょってあったり、どうでもよさそうなところに紙幅を割いてるような感じはあります。
ですから、特に有名な人物(ルドヴィヒ二世、ジル・ド・レ、プルーストなど)については、予備知識があった方がより本書を楽しめるでしょう。
ジル・ド・レ男爵に興味があって本書を読んだのですが、本書が示したジル・ド・レ男爵像にはなるほど説得力を感じました(バタイユの見解を紹介しているのですが)。
ただ、「神にも悪魔にも祈った」ジルが愚かであるとか、「中世とは、偉大なパラドックスな時代であった」という記述をする渋澤氏のキリスト教への理解のなさが残念に感じられました。
神にも悪魔にも祈ることは、論理的には矛盾しているが、心理的にはありうることですし、逆説的なのは中世というより、正確にはキリスト教(カトリック)の論理がそうなのです。
ジルが死後聖者のように扱われたのは、罪人も心から悔い改めれば救われるというカトリックの論理ゆえです(いかにジルの悔悟が劇場趣味的なものにみえても)。
何百人もの幼児を虐殺したジルが、共犯者に「天国で会おう」と語るのも、その論理に従った発言であり、神の救いを無邪気に信じるジルにはやっぱり信仰があったのだと私は理解しています。渋澤氏が、なんてムシの良い愚者と断じているのに対して。
ジルの「悔恨」を、カトリックの論理に照らして考察できたら、もっと深いエッセイになったのではないかなぁ〜と思う次第です。
他にも、統合失調者の奇行を長々論じていたり(病気なんだから仕方ないじゃん、と思った)、ツッコミたくなる個所は多々あるのですが、長くなるので割愛します。
でも全体として、情報量も多く、面白く読める快(怪)エッセイだと思います。