南方熊楠を名探偵役にすえた長編ミステリである。
ロンドンから帰国して間もなくの、那智や熊野にこもって植物採集に明け暮れていた時代を取り上げている。
著者の作品を読むのは初めて。植物や昆虫に詳しく、自然や怪異をテーマにすることの多い作家と聞くが、本書でもそうした知識・作風が遺憾なく発揮されていた。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、いかにも熊野という動物が使われ、そこに熊楠の「山人論」、西洋の類似の事例が取り入れられ、意外性のある結末につながっていく。
ただ、意外性はあるものの、ミステリとしてはいまいち。もう少し結末に工夫がほしい。
また、熊楠については、和歌山の田辺を出身地だと書く(そこは後半生に暮らした土地)など、誤った記述があちこち目に付く。私は熊楠への関心から本書を手に取ったので、かなり気になってしまった。