06年から10年まで雑誌「IKKI」にて連載されたオノ・ナツメ初の時代もの長編「さらい屋五葉」は、暇を出され上京した気弱な武士
・政之助と掴みどころのない妖しさを湛えた頭・弥一率いる拐かし集団「五葉」一味の出会いを端とし、清濁含みがらも確固と築か
れる人の絆の重みを教えられる名作であった。
心地良い余韻を残した最終巻発刊から早一年以上、ぽかんと空いたファンの心を今一度埋める様に、原作者のオノ氏と五葉メン
バー達から素敵な置土産が届いた。
本画集は掲載雑誌「IKKI」への寄稿・単行本表紙用作品を中心に、オノ氏個人のブログ掲載作品、販売促進用ポップやポストカー
ド・発売記念サイン会特典グッズ用の描き下ろしまで、ファン垂涎もののレア作品を含め収録。その上本画集用に描き下ろされた
全50P以上の漫画・イラスト群を全てカラーで収めた贅沢な一品。金箔風仕様ねこぽち袋等特典も含め丁寧な編まれ方が嬉しい。
オノ氏のイラストで好きな処の一つに優れた色彩感覚がある。彼女は数多の色をごてごて塗りたくることはせず、ここに収められた
イラストに使われる色も精々3種類程度。しかし色の組み合わせ方、明暗を活かした原色系の引き立て方が絶妙なのだ。モノクロを
基調としたイラストにさっと混ぜられる着物の紫や緑、紅葉の赤等の原色系の色は鮮やかに目に飛び込みその美しさに釘付けにな
る。彼女の絵は多くの色を用いなくとも豊かな色彩を引き出し得ることを教えてくれる。
また個人的にこの作品で重要な要素であったと思っている食べ物の秀逸な描写もしっかり網羅されている。素朴ながら実に旨そう
に描かれる白飯・味噌汁・漬物・蕎麦・団子に酒…食への欲求を刺激する一冊とも言える。描き下ろし漫画「松」にて冷たそうな雨
の中温かい蕎麦をすする松吉のコマはTVドラマ「鬼平犯科帳」のED映像を思わせる様で実にいい。
今回オノ氏が書き下ろした数頁ずつの短編漫画群(松・西瓜・焼き芋・梅とお絹・おたけ・ご隠居・弥一)だが、これがまた味ある出来。
私が最も好きなのが「弥一」、誠之助の家の使用人・弥一と若き日の八木の話である。ここで弥一が発する或る台詞から画集最後
に収められた五葉一味のイラストへと繋がるが如く編まれた構成は感動的だ。
最終のイラストを眺めながら、今頃彼らは再会を約束した遠い場所に梅造が開いた飯処でいつものように酒を交わしているに違いな
いと温かい気持ちになった。本篇終了から久しく間が空いた今、改めて一つのピリオドを私に打ってくれた素晴らしい画集である。