先代が銀座で立ち上げた老舗の日動画廊・代表取締役社長の長谷川徳七氏の絵画にまつわる様々なエピソードを満載しています。長谷川氏は全国洋画商連盟会長、全国美術商連合会会長を歴任するなど、美術の世界では大変な功績と役割を果たしてこられ、語り口調で読みやすく知られざる画廊経営の面白さと難しさも感じ取れました。
贋作の見分け方は美術商と呼ばれるプロでも難しくそれぞれ専門とする画家や領域があるようで含蓄のある話が展開してあります。贋作を防ぐために、作家の全作品を写真とデータによって収録したカタログ・ゼロネという全画集があり、それによって鑑定書が書かれるそうです。
藤田嗣治の作品の鑑定に際しては、長谷川氏の名前が登録されているようで、画家の遺族からも確認書をとっているとのこと。
146ページに、元経済企画庁の藤山愛一郎長官所蔵のルノアールの「少女」の絵が盗まれ、「絵が戻ってきたら国立西洋美術館に寄贈する」と発表し、その後無事帰ってきたことが書かれていました。滝川太郎というものがこのルノアールを描き、著名な評論家と組んで贋作を売り飛ばしたようです。寄贈を受けた国立西洋美術館は一度もその絵を展示していないという話はなるほど、感じた次第です。
佐伯祐三の贋作「吉薗コレクション」の大胆さにも驚かされました。巨額のお金が動く美術コレクションの売買の凄まじさを知る思いです。贋作とは別の詐欺で逮捕というのも納得です。
公正な判断とは自分の中の偏った善悪の感覚で見るのではなく、その絵が語りかけるままに見ることです、というコメントは含蓄に富んだものでした。