「ヘゲモニックな男性性」と「従属的男性性」という概念を軸に、今後の男性学のひとつの方向性を示した作品。男性VS女性という単純なジェンダー二分法ではなく、「男であること」の複数性(masculinities)から出発し、その実態の検証と権力構造の分析から、「男」の理想像がいかにして形成され、それが転じて女性と理想から逸脱した男性たちをどのように抑圧しているのかを解明する。
理想的な「男」のあり方というのは、近代を通して現在なお、「仕事のできる異性愛者」、プラス昨今では特にコミュニケーション能力の高い者であろう。こうした「理想」の姿はしかし、それが「理想」として構築されるための陰画を必要とする。すなわち「働けない男」(失業者、ニート、フリーター)であり、「異性と向き合えない男」「コミュニケーション能力の低い男」(オタク)といった存在である。彼らの「ダメ」さを糾弾し揶揄する発想と実践が、現状の「理想」像に力を付与しているわけだ。また、定年後の男たちもこの「理想」の権力構造による痛手を受けており、その対処法が求めらている。
本書を通読することで、以上のような複数の男性性をめぐる現状や権力関係を問うことの重要性に気付かされる。ただし、論点を明確に提示してくれたな、という感想はあるにせよ、既存の研究(評論)をレビューしただけの論考が大分を占めるため、実態研究としては弱いという印象を受けた。論点自体は大事だと思うので、著者や著者と問題意識を共有する研究者によって、社会調査をふまえたさらに実証的な「新展開」があることを願う。