過去にリリースされた「男はつらいよ」シリーズのサントラCDとは違い、映画の中で流れた
音楽を、年代順に機械的に並べるのではなく、あくまでも音楽鑑賞用として「男はつらいよ」
の“シリーズ全体”を壮大にイメージ出来るような構成。しかもシリーズ全てを担当した天才
作曲家・山本直純の音楽だけにとらわれず、劇中で頻繁に、そして効果的に使用されたクラシ
ック音楽も織りまぜ、CDを再生する事によって「寅さんのいる風景」を体感させる事に成功しています。
まずCDを再生すると、シリーズ1作目からは、モノクロ画面に満開の桜が映り、寅さんが柴
又について語るモノローグの場面に流れる曲。まず、ここからグッと作品世界に引き込まれま
す。そして渥美清の主題歌と続いて、6曲目の「寅が故郷を想わざる〜望郷の念」の懐かしさ!
8曲目の「さくらとの再会」の美しさ!!
32曲目は、シリーズではしばしば使用されているヨハン=シュトラウス二世の「春の声」。寅
さんやマドンナが旅する鮮やかな映像を思い浮かべてウキウキと楽しい気分になれること請け
合いで、39曲目の『寅次郎忘れな草』では寅さんが北海道の原野を歩く場面に流れるリムスキ
ー=コルサコフの「シェエラザード」第三楽章「若い王子と王女」が、まさにタメイキものの
美しさ壮大さ!
こうしたクラシック音楽も含めて初めて「男はつらいよ」の世界が表現されるわけですが、こ
れは「男はつらいよ」のサントラとしては今までになかったと思います。このコンセプトの妙
には舌を巻きます。次々と繰り出される映画を彩った名曲の数々!! 何度聴いても感動でき
る!!! 旅の途中の寅さんが、すぐ側を歩いているんじゃないか、そんな気持ちにさせられ
ます。
音質の良さにも驚きました。トラック3には「寅次郎の口上」も収録されていて、まるで目の
前で渥美清が仁義を切っているかのように、彼の息遣いまでもが伝わってくるクリアな音。各
楽曲の音の良さも勿論で、何十年も前に録音されたシリーズ1作目と、最終48作目の曲の音
質を比べても、ほとんど違和感が感じられません。
解説書には、その曲がシリーズの何作目の、どういうシチュエーションで流れたものかも書か
れてあるので、観た作品ならば、すぐに映画の情景を思い浮かべられるし、その作品を観た事
がなかったり細部を忘れているという場合でも、「こんな美しい曲が、どんな映像で使われて
いたのか?!」と、無性にその作品が観たくなりました。
映画を観ている時には意外と気付かないものですが、「『男はつらいよ』シリーズの音楽っ
て、こんなに良かったのか!」と改めて思わされました。この感動は、解説書に書かれてある
「主役は三枚目でも音楽は二枚目じゃなきゃいけないよ」という故・山本直純の言葉、これに
尽きるのかもしれません。
まさに「これを待っていた!」というサントラCDです。シリーズ全体の膨大な音楽の中から
“寅さん世界”を体感できるように曲を厳選し構成するのは、おそらく想像を絶する作業だっ
たであろう事は、「男はつらいよ」のファンならば分かるはずです。
それを実現させた娯楽映画研究者・佐藤利明の見識とセンスにも脱帽で、これは「男はつらい
よ」シリーズの魅力を知り尽くした人でなければ出来ないCDだと思います。山本直純、渥美
清、山田洋次監督というシリーズ中心人物の写真で構成されたシックなジャケット・デザイン
が、それを象徴しているのではないでしょうか。