【プロローグ】
せわしない都会で暮らしていると、美しい自然に囲まれ、田舎でのんびり暮らしたいとひそかに思うものだ。
数ヶ月前、私と私の白い犬は、一平方キロメートルに二万人弱の人々がひしめき、一日八〇〇〇台ものクルマが行き交う都会の真ん中に住んでいた。しかし今、目の前にあるのは、人口密度一〇〇人にも満たないであろう広大な自然の風景だった。
早朝、飴色の朝日に田園風景が輝きはじめ、シロツメクサの絨毯を敷きつめた農道はしっとりとうるおい、白い花は天に向かって頭を持ち上げている。数えきれないほどの鳥たちの鳴き声がサラウンドでふりそそぐ。山沿いには野菊、タンポポ、スミレ、野イチゴ、小さなトゲをつけるもの、かわいらしい実をつけるもの、針金のような茎ですっくと立ち上がるもの、大木へからみつき伸び上がっていくもの、色とりどりの花をつけるもの、ネコのしっぽのようなふさ毛を垂れるもの......。よくもこんなに種類があるものだと驚いてしまう。まるで植物図鑑の中に迷い込んだみたいだ。
以前、エコロジーをテーマにした雑誌の特集で、シアトルの山奥に暮らす男の話を読んだことがある。『サイバー素浪人』と呼ばれるそのマッチョな男は四十代、仕事は物品をインターネットで売買するオンライントレードだ。世俗を離れ、コンピュータひとつで山小屋に暮らし、食料品から日用品、嗜好品まですべてインターネットで調達する。一年中会議もなければ人と会うこともない。電話とメール、インターネットだけが彼のコミュニケーションの手段である。しかし、それでも彼は、生活に何の支障もなく悠々自適に暮らしている、という記事だった。
いまやネットショッピングが全盛になり、商品の品質やセキュリティも十分に信用できるレベルになりつつある。不安を感じることなく買い物ができる時代になったが、雑誌を読んだ当時は、生活必需品をすべてインタネットで調達することにかなりの違和感を覚えたものだった。しかし、もし日本のインターネット文化がアメリカに追いつくようになれば、彼のライフスタイルは私の理想に限りなく近かった。
そして、はからずも、この記事を読んだ十年後にこのど田舎で憧れのサイバー素浪人に近づいて思うことは、「バカやロー!」この一言に尽きる。
(中略)
東京の混雑にうんざりしていた私にとって、ここはまさに理想の場所に違いなかった。しかし、あれほど愉しみにしていたスローライフだというのに、よりどころを失って頭の中が混乱している私がいる。
正直に言おう。今は田舎が憎い。
鳩は「トーキョーニカエルルルル」と鳴き、カラスは「バカー、バカー」と鳴く。腹立ちまぎれに石を投げても、どいつもこいつも自由に飛び立てる立派な羽を持っている。しかし、私にはあの羽がない。平和すぎる風景の何もかもが憎々しい。広大な畑のど真ん中に立ち尽くし、山に向かって「バカやロー」と叫ぶ。
しかし、私はもう東京に帰れない。今さら帰るわけにはいかないのだ。
【コンテンツ】
◎第一章:そうだ、田舎に行こう!
犬と暮らす1・2人生活
私の家は環七サーキットの上
都会に感じた限界
二十二年ぶりのUターン構想
僧侶の衝撃的アドバイス
行く手をはばむ仕事の壁
キャラメル・マキアートを手放す葛藤
高知がそこにある!
◎第二章:ただいま、マイカントリー
旅行者気分の田舎暮らし
犬はよろこび道怖じ気づく
人はどこに、消えた?
免許がなけりゃどこへも行けない
田舎の夜は早かった
近道カントリーロード
ちっともコンビニエンスじゃないコンビニ
田舎カルチャーの逆襲
田舎の物価は安くない
都会の騒音、田舎の奇音
無知とは滑稽なまでに想像力が旺盛なこと
幸運まで一極集中
◎第三章:スローライフは甘くない
田舎の自然は都会人にきびしい
バイク便はいらない
高知式宴会ルール
毎日が日曜大工
ここは、どこだ?
ふたりの祖父
田舎で風邪をひくということ
◎田舎カルチャーとの闘い
吸血鬼型生活からの脱出
久米宏なんて、知らない
田舎のごちそう
都会人、田舎で激太り
はじめての配水管修理
地方分権ってなんだ?
田舎の孤独にミシンがしみる
スローライフのおばけ
往復6時間のスターバックス
「都会」から解放された日
田舎に生きる
◎あとがき
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最も参考になったカスタマーレビュー
34 人中、31人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
田舎暮らし後の現実をイメージできる,
By
レビュー対象商品: 田舎暮らしはつらかった (単行本)
どんなところに住むのかによって若干の違いはあるでしょうが、憧れの田舎暮らしを“始めた後”のイメージをつかむのに最適だと思います。ときにおかしく、ときに切ない共感を誘いながら、絶妙な比喩を交えつつ一気に読ませます。 ただ著者の場合、ひとまずネットがあれば仕事ができるライター稼業を生業とし、住まいは実家の母屋のため、田舎暮らしを始めるにあたっての家探しや職探しの苦労話を期待して読むと当てが外れてしまうと思いますが、都会には都会の良さが、田舎には田舎の良さがあり、都会で暮らすにせよ田舎で暮らすにせよ、何が一番大切か―ということを改めて気づかせてくれる一冊ではないでしょうか。
16 人中、15人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 3.0
実家暮らし、ですね。,
By あまぞんたろう (大阪府) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 田舎暮らしはつらかった (単行本)
都市の生活に慣れきった田舎っ子が、実家に舞い戻ることになり、今までの生活とのギャップにいろんなことを考えてみたりする。というおハナシ。田舎への住替えとか、老後の田舎生活なんかの話だと思って読むとがっかりするかも。
27 人中、24人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 1.0
空しい本,
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レビュー対象商品: 田舎暮らしはつらかった (単行本)
ペットが飼える引越し先が見つからないので田舎の実家に帰った。虫が多くて嫌で、スターバックスが無くて退屈した。 本書の内容はこんなところです。
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