著者の経験と思いの丈が余すところなく注ぎこまれた「入魂のコーヒー哲学&実践書」といった印象。
スペシャルティコーヒーの先行書籍やムック本等で培われてしまった“スノッブ的ブルジョアコーヒー”というネガティブイメージが本書によってかなり緩和され、豆を購入するまで到らなくとも幾分身近に感じられるようになりました。
既に一家言持つプロやアマの方がどう判断されるか自分には分かりませんが、ライブ感も伝わってくるスペシャルティコーヒー界の状況、豆毎の特徴描写や詳細な焙煎データ等は非常に有用と思われ、前著「珈琲大全」と併せ読むことで相当な実際的知識を得られるのは間違いないでしょう。
前著でもみられた傾向ですがコーヒー界の現況と同業者への歯に衣着せぬ発言が目につきます。個人的に共感できる場面も多いのですが、バッサリ斬られた側に立つとなかなか手厳しい感じです。しかし、こうした道産子的+江戸っ子的(台東区という店舗所在地と以前仕事で接した老舗商店の江戸っ子社長にイメージが重なるという単なる個人的印象)ズケズケした威勢の良さも田口氏著作の魅力の一要素だと思います。
基底には生産者も含めてコーヒー界を何とかよくしたいという思いが流れているのも充分感じ取れるので、読後感が苦くなるということはありません。
「知識が得られるのはありがたいけれど、毒もなければそれほど感銘も受けない(実用書に感動を求める方が変なのですが)」他のコーヒー本とはこの点でも一線を隔しています。
オーガニックコーヒーに対してそれほど好意的には書かれていませんでしたが、現状では日常飲用とするのはほぼ不可能なスペシャルティコーヒーはともかく、個人的にはオーガニックに戻りたいと切望しています。普通品より1〜2割程高かった複数銘柄が数年前なぜか同時的に更に30〜50%程値上がり購入を断念(ほぼプレミアム価格)。代替購入した普通生豆との飲み比べで明らかとなったオーガニックの「ピュア」な印象が忘れられないのです。(著者の“たいしたことのない・・やせている・・”とした点をピュアとはき違えているだけなのでしょう)
ともあれ、スペシャルティコーヒーに積極的関心のなかった自分でもググッと惹きこまれた充実の一冊です。
*余談・・実店舗で飲んだ深煎りストレートはコクはあるもののあっさりクイクイという感じで、基本的にこってり好きの自分には正直物足りませんでした。しかし、暑い季節でも口の中が嫌にならない飽きにくいコーヒーなのだろうな、とも思いました。