足尾鉱毒事件の告発者田中正造を、改めて民衆思想家
として総合的に再評価を試みると共に、『瓢鰻亭』の主宰
者前田俊彦に沖縄の石油備蓄基地に抗する安里清信、そ
してダム建設に反対するアイヌ、貝澤正らをその水脈で
捉え直そうとするものです。この場合の民衆思想家とは、
本書では自身が「ピープルネス(一身独立の人民)」とし
て生き、「サブシステンス(自然の営みに沿う生き方)」を
尊重し、「スピリチュアリティ(霊性)」を重視する行動者を
指します。
確かにこれまで田中正造は、彼を語りそして論じる者
の立場に引き付けられ過ぎ、一面的に捉えられることが
多かったように思います(研究史をふり返った際に出た東
海林吉郎さんの名前は懐かしかったです)。その意味では
彼を、民衆と共に生き、そして民衆から学ぼうとする民衆
思想家として捉える著者の立場は、彼自身の思いにいち
ばん近いものではないかと思いました。
ともあれ本書は、著者が日本のこれまでの住民運動の
到達点を確かめると共に、その語り部として全うしようと
いう決意を示したものだと思いました。