タイトル作の他、「死霊の如き歩くもの」、「天魔の如き跳ぶもの」、「屍蝋の如き滴るもの」、「顔無の如き攫うもの」の全5編を収めた中編集。何れも学生時代の刀城が遭遇した事件を連作中編集風に綴ったものである。作者の持ち味である本格味と民俗学を背景にした濃厚な伝奇ホラー味との融合を私は愛好しているが、中短編ではホラー風味がやや薄くなるのは止むを得ない所か。
「死霊の如き歩くもの」は、透明人間(!)が残した雪の上の下駄の足跡で構成されたカーばりの密室物。四阿が舞台なので、チェスタトン「犬のお告げ」風の処理をするのかと思ったら、新しい趣向に挑戦している。だが、それにしては事件の構造が単純で偶然性の高い物である上に、ホラー味の出し方に曲がない。最後の数行で無造作に投げ出されるだけで、怖さが滲み出て来ないのだ。その数行で事件の様相が反転するならまだしも......。「天魔の如き跳ぶもの」も足跡を利用した人間消失物だが、トリックが弱い上にホラー味の出し方が「死霊」と同工異曲で頂けない。この傾向は最後まで続く。「屍蝋の如き滴るもの」は今度は足跡のない犯人物。前二編に比べて伏線の張り方や雰囲気の醸し出し方に工夫が凝らされている。刀城が持つ怪異譚に纏わる異能を強調している辺りも可笑しい。本作で一番の出来に映った。タイトル作はドッペルゲンガー物。これに、「犬神家の一族」や安吾「復員殺人事件」的要素を絡ませた物だが、インパクトが弱い印象を受けた。登場人物や舞台となる旧家に関する書き込みを増やせば濃い長編となり得る素材なので惜しいと思う。「顔無の如き攫うもの」は子供消失物。小品だが少年探偵団を思わせる懐かしさが漂う。トリックも時代背景に即していて無理がない。
全体として禍々しい雰囲気を醸し出すよりは刀城と共に怪異譚の楽しさを追求している印象を受けた。どうしても「厭魅」レベルの作品を期待してしまうので物足りない面も感じたが、中編集としては中々の出来に仕上がっているのではないか。限られた分量の中で本格・ホラー味双方を出そうとする作者の腐心が伝わって来る。今後も期待したい。