「ジュニア新書」ですが、(残念ながら?)例えば私の息子(=中学3年生)や、その友人たちに読ませようとは思いません。おそらく、元々から環境保全や生物多様性保全に関心を持っていたり、あるいは既にある程度の知識を持っていることが前提でなければ、いきなり本書を読んでも、「沢山の人が色々なことに取り組んでいるみたいだけど、何だか良く分からないや。」という程度の感想になってしまうのではないかな?と思うからです。
「ジュニア新書」のシリーズの中には、平易な「入門書」として、一般の社会人にも勧めたいと思う本も多いのですが、本書は生物多様性保全のための取り組みの紹介が中心になっていて、例えば「生物多様性とは何か?」というような、素朴な疑問を一つずつ、順番に解説していくような構成にはなっていません。ですので、既にある程度の知識を持っていて、自分自身で内容を再整理・再構成できるだけのリテラシー(=読み書き能力)がないと、全体像が結びにくいのではないかと思います。そのような意味で、「入門書」として推奨したいとは感じませんでした。
ただその一方で、既にある程度の知識を持ち、環境保全や生物多様性保全にリテラシーのある中高校生であれば、これ以上の参考書はなさそうだとも感じます。ましてや、環境保全や生物多様性保全の現場で、小学生〜大学生までの「ジュニア〜ユース世代」の指導に当たっているような教師や指導者にとっては、大変有意義な本でしょう。ジュニア〜ユース世代を対象としたり、あるいはその世代が主体となった環境保全活動や環境教育活動の事例が豊富に紹介されていますし、何かと説明が難しくなりがちな生物多様性や環境保全の問題を、若い世代にどのように説明すれば良いのかということに関しても、沢山のヒントが得られます。環境教育・生物多様性保全教育への社会的要請の高まりを感じつつ、「いまいちピンと来ないなあ…。」と戸惑いを覚えていらっしゃる学校の先生などには、非常にありがたいのではないでしょうか(笑)。
また特に昨年(2010年)の名古屋での生物多様性条約のCOP10の意義と成果に関しては、非常に平易で、かつコンパクトな解説がされています。この部分はCOP10に関心が薄かった社会人の人たちにも、是非読んでいただきたい部分です。「愛知ターゲット」と「名古屋議定書」が合意されたことの意義や影響は、まだまだ、一般の企業人・ビジネスマンには十分に理解されていないように感じますので、本書を読んで是非一度、生物多様性の保全や遺伝資源の活用と、自分自身のこれからの生活との関わりを考えていただけるとありがたいと思います。
というわけで、内容的には非常に優れた本であり、良書だとは思うのですが、その一方で読者の想定が中途半端に感じられ、「誰に勧めたら良いのだろう?」と、戸惑いを感じるのも正直なところです。
著者の香坂玲先生は、「はじめに」の部分で、「若いみなさん」に向けて
>本書を読んで、生物多様性が少しでも身近に感じられ、自分ももっと考えてみたい、
>学んでみたい、積極的にかかわってみたい、と思っていただけたら、望外の喜びです。
と書いていらっしゃいますが、もし先生が本気で何も知らない中学生や高校生がこの本を手に取ることを想定して書いたのだとしたら、先生がいつも接していらっしゃる「若いみなさん」は、ちょっと優秀すぎますよ(笑)。
何だか申し訳ないようにも感じますが、不出来な中学生の親としては星4つ。ウチの息子も出来ればいつか、本書に紹介されているような高校生・大学生になってもらいたいものです(苦笑)。