生命も化学現象ではあるが、「発生から死まで動的平衡が続く」という大きな特徴があることに注意を喚起しています。著者の語り口には、文学作品を思わせるような透明さがあり、DNA研究史やご自身の研究史にもなっていて、「つながり」を感じる不思議な本です。
小生の印象に残った点は以下です。
・ウィルスは代謝をしていない。自身を寄生主に複写させることに特化した無生物。
・思い込みから逃れるのは難しい。
・「壊れる前に壊す」が、生物の秩序維持の方法。このため、生体内の物質は絶えず入れ替わっている。
・食事を摂らないと死ぬのは、エネルギー不足が主因ではなく、新しい蛋白質が合成できなくなるのが主因。
・生体は、3次元ジグゾー・パズルのようなもの。流れてきた蛋白質が、当てはまるべき場所にはまる。
・ある蛋白質が無くても、他のものが代用することで、生体として正常に動作することがある。
・人工的に一部のみ変更した蛋白質をジグゾー・パズルにはまると、生体がその異常を検知できず、生体全体が機能不全になることがある。
・発生は、後戻りできない動的平衡の変化の連続。
「老朽化で壊れ、制御不能になる前に、自分で壊すのが生物の秩序維持方法」という所にハッとしました。「発生も生存も、動的平衡に向かう化学反応のシーケンス」という本質にも。膨大な手数の裏付け実験が必要なバイオ研究の経験から、さまざまな本質を浮かび上がらせた良本だと思います。