とても誠実な本である。自分自身や研究内容を一般の人々に理解してもらおうと誠心誠意心を尽くしている。著者のそんな人柄がにじみ出た文章は非常に好ましく、素晴らしい。難しい研究を解説する第2章は簡単には読み進められないだろうが、それでも熟練のクライマーが絶壁を登るように一歩一歩着実に解説してくれるおかげで、理解に苦しむことはないはず。むしろ、高分子が壊れずに気化するレーザー光の当て方を、ある失敗から発見する経緯はとても興味深かった。やや残念なのは第3章。講演の聴衆を対象にしたために、山根一真による対談は第2章の内容をかみ砕くことに終始し、研究の深みを引き出すまでには至っていない。
一般読者にとって最も面白いのは第1章に違いない。「隔離室」に逃げ込んだ受賞の日や、のこぎりの目立て職人である父を持った家庭環境、島津製作所でエンジニアとして過ごした日々――。この自伝を読んで、「生涯一エンジニア」を貫く著者が実に魅力的な人間であることをあらためて思い知らされた。また、独創性と創造性についての考察は必読だ。「ネクラ」と呼ばれたこともある著者が、現場を支える理系の人々をもう少し尊敬してほしいと真摯に訴えるくだりには思わず胸が熱くなった。(齋藤聡海)
本書を読み進むと、これまでの「田中本」の内容も含め、不特定多数にあまりにも生い立ちなどを知られてしまうことに、気の毒な気持ちもする。 報道が過熱して業務にも支障をきたしだしたため海外移住も考えた、と田中氏は本書冒頭で述べているが、それも納得だ。
本来なら、マスコミ関係の仕事をすべて拒絶してもおかしくない状況で、それでも田中氏が本書を執筆したのは「理系の人間は自分を理解してもらう努力が不足している」との課題に自ら取り組むためだ。科学に関わる全ての人に、本書を読みながらこのエピソードについても考えてほしい。
(日経バイオビジネス 2003/12/01 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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受賞が決まつた日、小柴昌俊氏のノーベル物理学賞のニュースを見て「すごいな」と思いながら出勤する。夕方帰り支度をしているところへ外国から電話があり「コングラチュレーション」と言われる。何のことか分からぬまま、同僚の仕組んだ「びっくりカメラ」ではないかと想像しながら「ありがとう」といって電話を切る。
「それからが大変でした」。職場に50台以上ある電話がいっせいに鳴りはじめ、いったい何が起こったのか、わけのわからぬまま驚きと喜びの渦の中へ巻きこまれてゆく。
3年前だったか、イチローがメジャーリーグへ移った最初の年、あこがれのオールスターゲームを見たくて入場券を買っておいたところ、自分が第1位に選ばれてしまったという話を淡々と語っていたが、両者相通ずるような気がする。
本書の中に、ノーベル博物館の館長が語る「個人が創造性を発揮するために重要な」要件が掲げてある。「勇気」「挑戦」「不屈の意志」「組み合わせ」「新たな視点」「遊ぴ心」「偶然」「努力」「瞬問的」「ひらめき」だそうである。この9項目を、著者は「ソフトレーザー脱離イオン化法」を発見した時の自分に当てはめて、「しかし、よく考えると、これは普通誰もが持っている性質ばかりではないか」。つまり独創性は、天才だけの特別なものではなく、誰にでもあるのだという励ましの論理が展開されているのも嬉しい。
生涯一エンジニアをめざす著者の、しかし、なかなか真似のできない人柄と能力と幸運とが、ケレン味なく語られている。
技術者にこだわり続ける田中さんの人柄があふれてくる本です。
・専門知識がない、という欠点は時と場合によっては強みになり、利点として活かすこともできる
・理論的に裏付けのない常識は疑ってみる
など、技術者にとっては、「さすが」と思わせる鋭さもあります。
「エンジニア自身、もっと自分の仕事についてちゃんと話せる用にならなければいけない」という言葉は、自分自身も身をしみてわかっているだけに、さらに強く思うようになりました。
「大学の研究室で使っていた実験器具に
島津製作所の文字と轡十文字が入っていたけど
どんな会社なのか。
企業内で働いていて
いったい、どんな功績で受賞したのか知りたい。」
そんな私の疑問のどちらも、
ていねいにかみくだいて書かれてありました。
そして、田中さんのエンジニアとしての姿勢や
その姿勢をつくってきた、家族や学校でのエピソードも
飾りなく書かれています。
お父様が職人さんだったので
手を動かすのが好きになった。
いっしょに暮らしていたおばあ様の口癖が「もったいない」
だったので、自分も「もったいない」と思って
失敗作で実験をしてノーベル賞の発見をした。
等、やっぱり身近に感じるお話です。
受賞の質量分析は
2章の講演単独だとわかりにくいかもしれませんが
3章の対談を読むと、例えをつかった説明になって
ぐっと理解しやすくなります。
記者会見で見た
「まじめで、仕事に熱心にとりくんできた
サラリーマン研究者」
そのままの方だということが
この本を読むと分かります。
「人々の役に立つ装置の開発をめざして、
これからもずっとエンジニアとして生きていきたいと思います。」
という言葉にエンジニアとしての気概を感じます。
こんな素敵なエンジニアが働いてる日本はいい国だな
とも思いました。
かまえずに読むことができて、田中さんのやさしい人柄がわかる本です。
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