ボリューム、価格、内容、どれをとっても、これまで生態学や生物多様性という言葉に馴染みのなかった人に、「まずこれを読んでみたら?」と、自信を持って勧められる。専門書のような深みはないが、広範な内容を分かりやすく、簡潔に、しかもところどころに“トリビア”的な要素も織り交ぜて飽きさせることなく、イラストたっぷりの新書にまとめ上げたのは、さすがに新聞社の科学記者としてキャリアを積んだ著者ならではの力量だろう。
また我々、人類の過去から現在までの暮らしや社会が、野生の生き物同士の繋がりにどのような影響を及ぼしたのかを丁寧に説明しているにとどまらず、逆に我々の暮らしや社会が、現在もまだ、その生き物同士の繋がりに支えられて成り立っているのだという指摘は貴重な指摘でもある。最終章がやや“尻切れトンボ”に終わっている恨みはあるが、そのような視点から現在の世界の生物多様性保全への取り組みや温室効果ガスの削減への努力なども紹介されており、内容はいわゆる「生態学」の範疇にはとどまらない。ジャーナリストならではの視点が活きており、この本の際立って優れた部分である。
名古屋での生物多様性条約COP10開催も近づいて、生物多様性や生態系・生態学に対する一般の関心も高まりつつあると思うのだが、この本以前には中々、生態学の基礎から始めて現在の我々の喫緊の課題まで、一気に俯瞰させてくれるような書籍はなかった。長く待ち望んでいだ一冊が、ようやく上梓されたという感慨を覚える。
生態学や生物多様性に関する基礎知識を持つことは、「環境の世紀」と呼ばれる21世紀を生きる我々にとって、社会生活を営む上で必須のリベラルアーツ(一般教養)となるに違いない。私は全ての国民に、一度はこの本を読んで欲しいと思う。真に持続可能な社会づくりは、そのような努力から始まることだろう。